第21章 熱の在処
「…あっ、…や……っ!」
戸惑いを帯びた声が耳を打つ。柔らかな白い皮膚へ唇を滑らせ、音を立てて軽く吸った。覗かせた舌先で優しく鎖骨の線を外側から内側へと辿り、小さな窪みへも口付けを落とす。唾液の絡んだ熱い舌先が肌を滑る度、凪は言い知れぬ羞恥を覚えて身をぐっと竦めた。
心臓がおかしいくらいに早鐘を打ち、光秀が触れている箇所が異様に熱い。こんな感覚、清秀にされた時にはなかった。瞠った眼を向けた先、長い睫毛を伏せた光秀が白に映える赤い舌を覗かせて自らの肌を舐め上げるその姿を間近で捉えてしまい、顔に熱が集まる。
「光秀、さん…!あの、…ん…っ、」
「…どうした、声が些か上擦っているようだが?」
ちゅ、とわざと音を立てて鎖骨に口付けられ、中途半端に紡ぎかけた声が途切れて上擦る。口付けを落とした箇所をゆっくりと舐め上げた後、伏せていた睫毛を緩慢に持ち上げた光秀は、彼女の表情を見ないままで微かに口角を上げた。
敢えて指摘された事がいっそう羞恥を煽り、凪は光秀の肩を必死に押し返そうとする。けれどその度、わざと舌先で窪みをくすぐるように刺激され、指先の力を奪っていた。
「なんで、機嫌、直ったんじゃ…っ」
「機嫌は直ったが…他でもない、お前に煽られたものでな」
「理由に…なってな…、あっ、光秀さ…んっ、」
必死に言葉を紡ぐ凪の声を愉しむよう目を伏せた光秀が、再度音を立てて鎖骨の下辺り────清秀が触れていた辺りへ、さながら上書きのように吸い付く。痕が付かない程度のそれは、ぬらりとした透明な唾液の跡をしっとりと真白な肌へ残した。
理由になっていない、そう主張する凪の声に顔を上げる。薄い月明かりの下、影の黒と灯りの橙が混ざる明暗の中、光秀が凪を見つめ、口元から笑みを消した。
「…馬鹿を言え」
溢れそうな感情を無理矢理押し込めたような低音が、凪の鼓動を騒がせる。吐息と共に紡がれたその短い音の意味を問う間も無く、伸ばされた片手が凪の側頭部へ添えられた。
指を軽く立て、長く艷やかな黒髪を数度優しく梳き下ろしながら光秀の眉根がほんの僅か、凪でも認識出来る程度に寄せられる。
「お前に煽られたからだと言っただろう」