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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



廃寺から陣に戻るまでの間に意識を切り替えたのか、光秀はいつも通りの雰囲気に戻っている…ように見える。だが、普段は交わる視線があまりぶつからない事に気付いていた凪は、幾分落ち込んだ内心を隠すよう、話し合いに耳を傾けていた。

「後の問題は合図と敵の出方ですね。…本当に出て来るんですか?光秀さんの言う、敵の後方部隊ってやつ。斥候の報告だと、まだ信長様の前には出て来てないみたいですけど」
「…ああ、必ず姿を現す。凪がその姿を既に【見て】いるからな」
「……え、それってもしかして、あの外国製の銃を持った部隊の事ですか?」
「ご明察。そもそも今回の目的は、敵の油断と侮りを誘い、あの男が流したであろう南蛮筒を持った部隊を、この戦場へ引き摺り出す事にある」

(謀反を起こしたから、それを抑えに行くっていう目的だけじゃなかったんだ…)

家康の疑問をあっさりと肯定した光秀が凪の名を唐突に出した事で、一瞬彼女はびくりと肩を跳ねさせる。驚いた様子で隣に居る光秀の顔を見上げるも、彼は地図へ視線を向けたまま言葉を紡いだ。その事実にちくりと痛む心を振り払い、彼女は必死に現状と光秀の目的を脳内で整理する。

今回の目的は清秀の動向の他に、摂津で押さえ損ねた南蛮筒の流れ付く先を確認、及び回収するというものが密かに組み込まれていた。天候の不安定なこの小国で、銃を扱う部隊が姿を現すかはほとんど賭け状態であった。その為、戦の期間を可能な範囲で延ばし、それ等をあぶり出すというのが光秀の献上した策である。
信長が退屈な囮役となったのも、前日に光秀が中途半端なところで撤退し、敵に慇懃な称賛を贈ったのも、すべては計算し尽くされたものだったのだ。
それは、幾度も間者を送って来るという、臆病且つ短絡的、そのくせ自尊心と慢心だけは人一倍という、この小国の大名の性格を考慮した上で立てられたものである。現に昨日よりも歯ごたえがないのは、裏で糸を引いていた中川清秀が途中離脱したという事も大きいが、指揮を執る総大将の油断と侮りが大きい。自尊心だけは立派な大名の性格であれば、自身の力を誇示せんと、最新鋭とでも謳われた南蛮筒の部隊を送り出して来るだろう事は容易に予測出来るという事だ。

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