第1章 序
兎にも角にも、どこであろうと食い扶持は必要不可欠なものである。世話役と言っても、恐らくは雑用係のようなものであろうし、何もせずに引きこもるよりはマシかと意識を切り替え、凪は居住いを正した。
「…わかりました。私に出来る範囲で頑張ります」
凪の返答を耳にし、信長が満足げに笑む。
眇めた眸の奥で果たして一体何を考えているのか、脇息に預けた肘を立て、そのまま優雅な所作で頬杖をついた。
「いいだろう、せいぜい可愛がってやる。凪」
新しい玩具でも手に入れたかのように、愉快さを音に滲ませた男の整った顔を真っ直ぐに見つめ、凪は正座した膝の上にある拳を密かに握りしめる。
佐助から3ヶ月後のワームホールの存在を耳にした時より心に決めていた、ある事柄を改めて胸中で繰り返した。
戦国武将が集まる城の中で暮らすなんて、一般人の自分では命がいくつあっても足りる気がしない。平穏無事に3ヶ月後を迎える為にやらなければいけない事、それは即ち。
(お給金貯めて、まずはこのお城から出る…───!)
それぞれの思惑を胸に、唐突過ぎる凪の戦国ライフが実に強制的に幕を開けたのだった。