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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



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光秀に薬学や応急手当、加えて情勢を学ぶ許可を貰った翌朝─────。

安土城ですべき事があると告げた光秀に倣い、凪も共に登城する事となった。もし家康に会う機会があれば、許可を得た旨を伝えようと思った彼女は、ひとまず城での時間潰しの為にメモ帳と筆記用具、秀吉から作って貰った五十音表等を巾着へ詰め、安土城へ向かう。
逐一仕事内容を告げる事の無い光秀は、いつぞやのように安土城の自室へ凪を送り届けた後でお千代と幾つか言葉を交わし、早々に部屋を立ち去った。今日こそは面倒を見れると意気込んだお千代の嬉々とした笑顔を見てつい苦笑した彼女の元へ新たな訪問者がやって来たのはそれから四半刻程経った後の事である。
訪問者───家康を見た凪は、昨日光秀から許可を得た事を伝えると、彼は特に驚く様子もなく、そう、良かったね、と素っ気ない返事をしただけだった。
実は廊下で光秀とすれ違った際、光秀から凪を宜しく頼む、とだけ言われていた為、何となく予想がついていた、とはわざわざ彼女へ言いはしなかったのだが。

そういった経緯もあり、本日より時間を割いて貰いつつ家康に薬学と応急手当を学ぶ旨を改めて頭を下げながら頼んだ彼女へ、家康はただ一言、じゃあ行くよ、とだけ告げたのだった。

そして、お千代の名残惜しそうな視線を背に受けながら前をすたすた歩く家康へついていった凪は汚れるから、と打ち掛けを脱がされると小袖一枚の姿で、あれよあれよと厩(うまや)の前へ連れて来られ、現在に至る────。

「ほら、乗って」

(何故…!?)

荷物を積んだ状態の馬に跨り、馬上から凪を見た家康は特に何の説明もなく短い声をかけた。光秀といい、家康といい、ちょっと言葉が足りないんじゃないかと思う凪だったが、薬学の師匠となった家康相手に下手な口答えは出来まい。
心の中の疑問が思い切り外へ漏れている彼女の表情を見やり、短い溜息を漏らして片手を伸ばす。

「目的地の分からないあんたを一人馬に乗せる訳にもいかない。さっさと乗りなよ」

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