第15章 躓く石も縁の端
ほとんど答えが分かっているような問いを敢えて投げて来る男────明智光忠へ光秀が瞼を伏せたまま微笑すれば、光忠は肩を竦めると悪びれた様もなく言い切る。
似た風貌な男が二人並んだ事に、九兵衛は内心苦笑した。
こうして見ると二人はまとう色合いこそ異なっているが、雰囲気は近しいものがある。
(……さすがは光秀様の従兄弟殿でいらっしゃる)
光忠は光秀の叔父にあたる者の子であり、長年光秀へ仕えて来た家臣達の中でも古株にあたる人物だ。光秀より数歳年下であり、年若い部類には入るが明智光秀の従兄弟、というだけあってなかなか癖がある人物だと一部では囁かれている程である。
「九兵衛殿は噂の姫君をご存知か」
「九兵衛、あまり余計な事をこの男へ話すな」
従兄弟同士の言葉が適度に重なり、九兵衛はつい苦笑した。無論九兵衛としては光秀の家臣なので、当然光秀の命に従うのみである。
「……と、主君が申しておりますので」
「それはつまらぬ。では光秀様、近々姫君へご挨拶に伺っても?」
「止めておけ。噛み付かれるぞ」
九兵衛の断り文句は予想出来ていたのか、言葉とは裏腹な調子で口角を上げ、光忠は隣を進む光秀へ切れ長の視線をそっと流した。従兄弟の視線をさらりと受け流し、光秀はきっぱりと一刀両断する。ぴしゃりと言い切られ、その反応が意外であったらしい光忠は僅かに眼を見開き、それを数度瞬かせた。
やがて、くすりと含みのある微笑を乗せては長い睫毛をそっと伏せる。
「では光秀様と姫君のご機嫌がよろしい、いつかの機会に。土産に黒豆でもお持ちしましょうか」
「…さて、機嫌が良くなるのがどれ程先か俺には見当もつかないが、それでも良ければ好きにしろ」
「……遠回しに、来るなと仰っているでしょう。光秀様」
「ほう…?少しは物分りが良くなったらしい。成長めざましいのは何よりだ」