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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



吐き捨てた女に対し、光秀は眇めた双眸へ冷たい色を宿したままで口元にだけ笑みを乗せる。わざとらしく肩を竦めた後、胸前で緩やかに腕を組んだ。

「三年前の摂津での大戦(おおいくさ)、あれを期に傘下の身でありながら、虎視眈々と信長様を討つ機を狙っていたらしいが、残念ながらすべて筒抜けだ」
「…詰めの甘い主を持つと、下々の者は苦労するもの。でも私はそんな甘い人に興味はないわ」
「……ほう?」

煽るような文句を並べた光秀に対し、女は物憂げな溜息を一つ溢した後、鼻先で笑い飛ばすように冷めた声色で吐き捨てる。
それを耳にし、光秀はそっと口元の冷たい笑みを深めた。
わざと関心深い振りをした光秀が片眉を驚いた風で持ち上げて見せれば、女がそれまで取り澄ましていた顔を一変させ、強い意思と深い感情に双眸を輝かせ、恍惚とした様子で顔を上げる。

「貴方は私がかの大名の間者だと踏んでいたんでしょうけれど、とんだお門違い。私はあんな詰めの甘い間抜けに命を捧げたわけではないわ…!あの御方の存在を前に、せいぜい惨めったらしく右往左往なさい、明智光秀…!」

前半は深い忠誠に酔ったかの如く、後半は深い嘲りの色を込め、女は人が変わったように甲高く笑った。
歪んだ女の顔をただ見つめ、やがて一度瞼を閉ざした後で再びそれを覗かせる。

「怖や怖や、女というものは幾つもの顔を持つと言うが、言い得て妙といったところか。化けの皮が完全に剥がれ落ちる前に、済ませてしまうとしよう」
「お気を付けなさいませ。あの可愛いお姫様だって同じ女、可愛い顔の下にどんな醜い顔を隠しているか…───う、ぐっ!?」

小馬鹿にしたかのような男へ眉間を顰めた後、女は取り澄ました様子で口角を上げた。誰と敢えて名を挙げずとも分かる言い回しで皮肉を紡いだ瞬間、伸ばされた光秀の腕が宴の際のように女の顎を掴み上げ、ぐいと強く上へ持ち上げる。軽く身を屈めた光秀の端正な、けれど感情のない顔が近付き、紫電一閃の如く冷たい眼差しが女を射抜いた。

「お前があの娘を不用意に語るな」

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