第13章 再宴
「…っ、ん…ッ、ぅ……」
ぬるりとした舌先が腔内へ入り込み、ままならない呼吸にくぐもった声が凪から零れた。鼻に掛かったか細い音はさながら情事の色を思い起こさせ、閉ざしていた瞼を開けた光秀が目の前で震える長い睫毛と赤らんだ目元へ双眸を眇める。
壁へ縫い止めた手首がひくりと震える様がいじらしく、親指の腹で宥めるように皮膚を撫ぜながら、腔内の奥へ怯えて逃げる小さな舌を追った。
「ん…ッ、ン……っ」
次第に唾液が絡まっていき、顔の角度を変える事で深くなった所為で、逃げた舌が捉えられる。巧みに絡められ、その度に鼓膜へ直接響くかのような水音が男の思考を鈍く溶かしていく。
苦しげに眉根を寄せる凪の姿を捉え、甘く舌先を吸い上げると共に、ほんの僅か唇を離した。
「は…っ、あ…ッ…は、…」
「……どうした、やると言ったのはお前の方だろう?」
「ここまでの、つもり、…じゃ…っ」
酸素が不足している所為で覗いた首筋や耳朶までが淡く染まる。色付く様を明るい時分に見れなかったと片隅で悔やむ傍ら、今が闇夜で良かったと光秀は矛盾した思考に嗤った。
切れ切れの合間に頼りない呼吸が響き、額をこつりと合わせながら潤んだ眼を覗き込む。ふっくらと柔らかくて甘美な唇へひとつ、触れるだけの口付けを落として、光秀が吐息だけで囁いた。
「────…俺もだ」
やがて縫い止めていた手首を解放し、髪へ指を這わせて後頭部を押さえるようにした瞬間、髪に挿していた真白な芙蓉がはらりと二人の足元へ落ちる。そうして留めていた艷やかな黒髪がはらりと解かれ、流れた。
「凪」
短く名を呼ぶ合間、後頭部へ添えた手とは反対の手も顔へ添え、再び呼吸を呑み込む。ちゅ、という愛らしい音に反し、舌を唾液と共に絡めた光秀の腕の中、震える華奢な凪の身体がかくん、と力を僅かに失った拍子に彼女の足を割り、片膝を光秀がそこへ滑らせる。
「や…っ、ぁ…、…っ、ん…」
「…そんなに息を乱して、可愛いな」
ふるりと震えた凪の身体を宥めるようにして片手で滑らかな髪を梳く合間、鼓膜を打つ小さな声に下肢が熱くなった。耳に心地よくも淫靡な水音を幾度も響かせ、直接注ぎ込むように囁くと凪の身体がひくりと跳ねる。