第12章 家賃
「ならば」
「…っ!?な、光秀さん…!」
短い音のみを溢し、手首を捉えたままであった彼女の細い小指の付け根へほんの僅か軽く吸い付き、ちくりとした微かな刺激を光秀が与える。肌を吸うという、その行為が何であるのかを知らぬ訳がない凪が咎めの意で声を上げたと同時、顔を上げた光秀の目が色めいて眇められた。
白い小指の付け根、そこに散った紅い印を目にし、思わず次いで文句を発しようとした凪よりも早く、光秀が彼女の手を解放する。
そのまま流れるような所作で光秀が自らの手、小指の付け根へわざと口付けてみせ、男の愉しげな笑みが凪の目の前へと落とされた。
「────…ひとつめ、確かに貰ったぞ」
家賃契約ひとつめ、添い寝。
光秀自身の健康と睡眠時間確保の為とはいえ、何故こんなものを家賃として支払うと決めてしまったのか、と凪が後悔する日は、恐らくそう遠くはない。