第11章 術計の宴 後
真意が掴めないのは光秀とて同じ事で、緩やかに刻まれた笑みのままで音が発せられれば、一瞬目を瞬かせた政宗が何処となく好戦的に口角を上げた。
「そいつはいいな。懐かない猫を手懐けるのは得意分野だ」
「人を珍獣扱いしないでください、ていうか光秀さん。距離近いです」
「おっと、気付かなかったな」
光秀と政宗のやり取りの意図を知ってか知らずか、動物扱いされている事に文句を言った凪が腰に回った光秀の腕を指摘する。白々しく言ってのけた光秀がするりと腕を離した後で、信長へと向き直った。やり取りに特には口出しせず、何かを見定めるよう見ていた男の緋色を見て、光秀は常の笑みを浮かべ、頭を下げた。
「それでは信長様。お先に御前を失礼致します。…後ほど、改めて天主へ参ります故、今しばらくお待ちください」
「良いだろう。凪、貴様も共に来い」
「は、はい…!」
信長へ命じられるままに頷いた凪が信長へ頭を下げるのを見届けた後、光秀は自然な所作で彼女の手を取り、歩き出す。やがて大広間を立ち去った二人を見送った後、おもむろに他の武将達も口々に信長へ挨拶をして、その場を去って行った。
残されたのは秀吉と、上座に居る信長だけであり、脇息に凭れたままであった身をそのままに、肘をついた片手のひらで男が口元を軽く思案するように覆う。
「……光秀にあのような顔をさせるとは、清秀の事といい、面白い。どうやら俺は、京で随分と良い拾い物をしたようだ」
誰に同意を求めるでもなく、ただ淡々と抑揚なく呟きを落とした主君を見やり、秀吉は内心で深く同意した。凪が光秀の傍に居る事により、あの腹の底が読めない男の真意を少しずつでも覗く事が出来ればいいと思いながら、秀吉は静かに瞼を閉ざしたのだった。