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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 術計の宴 後



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襖を開かれた向こうは夕刻に合わせて端々に行灯(あんどん)の灯りが灯されており、昼間訪れた大広間の雰囲気とはまったく違ったものを醸し出していた。
豪勢な襖の絵柄や調度品が橙色の灯りに照らされる事でぼんやりとした輝きを増し、少しずつ空が薄暗さを帯び始めているにも関わらず、この空間だけがまばゆく輝いているような錯覚さえ引き起こさせる。
綺羅びやかさを思わせるのは調度品や灯りの所為だけではない。
軍議の時には緊張してそこまでの意識が回る事もなかったが、こうして下座からずらりと並んでいる武将達と天下人が一堂に会する様を目にすると実に圧巻の一言でしかなく、歴史の教科書など信じられなくなりそうな美麗な姿の男達が揃っているのだから、夜に近付く刻限であっても、場が華やぐというのは当然の事だ。

席順はどうやら軍議の時と変わらぬ様子であったが、比較的詰めた状態で座っていた昼間とは異なり、前方に膳などが置かれている事もあってか、彼らは隣との間隔をそれなりに開き、ゆったりとした様子である。
酒の席は無礼講、などとはよく言われるようだが、それもあながち嘘ではないらしい。
きっちりと正座した状態で座っているのは三成と家康くらいで、信長はさておき、その他の面々は胡座をかいて格好を適度に崩していた。

昼間は閉ざされていた両端の襖は開け放たれ、宴に列席している複数の家臣達の姿が見える。
別間では家臣も参加すると予めお千代に聞いていた為、あまり動揺はしなかったが、明らかに多い人数の中で注目されているというのはどうにも居心地が悪い。

「……あの、遅くなりました」

そんなこんなで広間や武将達の様子を窺った後、背後でお千代がそうしたのだろう、襖が静かに閉ざされた。
逃げ場の一切なくなった凪は、このまま無言で居るのもどうかと思い、当たり障りのない言葉を選んで口にする。

「ようやく来おったか」

凪の真正面には、既に盃を傾けている信長の姿があった。
続いて向けられた秀吉の視線は相変わらずであったが、どうやら何も口にする様子はなく、彼の視線は静かに逸らされる。
その真正面、凪から見て左側に座っていた男へ意識を向けたが、ふとした違和感に彼女は内心首を捻った。

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