第9章 帰路
「一緒に居る間、たくさん助けて守ってくれた事は、凄く感謝してます。ありがとう、光秀さん」
「……っ、」
真っ直ぐで掛け値無しの感謝の言葉が光秀の元へと伝えられた。綻ぶは大輪の花、美しく咲く芙蓉の花の如く甘やかで愛らしい笑顔と共に贈られたそれを間近で受け止めた光秀の耳朶が微かな熱を帯びる。
「……元は無理矢理連れて行かれたというのに、筋金入りのお人好しだな、お前は」
「それはそれ、これはこれで……わっ!?」
憮然とした面持ちのまま紡がれた低い声に、反論を紡ごうとした凪だったが、突如として駆け出した馬に驚いてすぐさま正面へ向き直り、鞍の端を掴まえる。
駆け足よりも少しだけ早まった馬の速度は、さながら男の鼓動を表しているかのようだ。
「もう、速度上げるならそう言ってくださいよ…っ」
「…余所見しているお前が悪い。黙って掴まっていろ、落馬しても助けてやらないぞ」
「そんなヘマしないから大丈夫です」
驚いた事に対して凪が文句を言うも、光秀はただ素っ気なく言葉を返して来るだけで、幾度か見た男のそういった行動に、いよいよ合点がいったらしい凪はしかし、深く突っ込む事なく軽口を返しながら小さく笑いを零し、柔らかく桜色の唇に弧を刻むのだった。