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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 摂津 肆



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摂津国、有崎城下町潜入最終日。

明六つ(あけむつ)と呼ばれる頃、初夏における太陽の巡りは思いの他早く、既に室内へ障子越しに射し込まれる明るい日差しを感じ、凪は薄っすら瞼を持ち上げた。

戦国時代にやって来てからというもの、割と早起き続きだった事もあってすっかり体内時計はそれに順応した様子である。
そっと上体を起こして顔を巡らせて確認すると、少し離れた距離にあるもう一組の褥は一切使用された痕跡が残っていなかった。

(……もしかして、また徹夜?)

再び室内を見回した凪は、自身が寝入っていた一室の中に、光秀の姿がない事に気付く。
徹夜を連日続けた可能性をそこに見出し、凪は僅かに顔を顰めた。山城国での一泊以来、光秀が横たわっている姿を目にしていないような気がする。
さすがに身体を壊してしまうのでは、と心配になるのは当然の事だった。

褥から起き上がり、それを綺麗に片付けてから身支度を整える。
井戸水で洗顔などを一通り済ませ、すっかり着慣れてしまった小袖へ袖を通し、帯を結んだところで続き部屋の襖が静かに開けられた。

「起きていたのか」
「わっ!?…お、おはようございます」
「おはよう、今の驚きぶりはなかなか愉快だったぞ」
「後ろから急に声かけられたら驚きますよ、普通」

続き部屋からやって来たのは光秀だった。
タイミングがもう少し早ければ、うっかり着替えを見られていたかもしれないと思い、驚きと安堵の入り混じった調子で紡いだ挨拶を耳にして、光秀は面白そうに微かに肩を揺らす。
文句を言い返しながら眉根を寄せた凪だったが、光秀の格好を目にした瞬間、どくりと鼓動を跳ねさせた。

「光秀さん、その格好…」
「ああ、そろそろ摂津の潜入も潮時といったところだ」

凪が言わんとしている事に気付き、光秀は鷹揚に頷きながら微笑する。
光秀はここ数日まとっていた着流しに羽織姿ではなく、白い着物に白袴姿であった。摂津の潜入が潮時という事は、恐らく今日の内にここを発つのだろう。
脳裏に、川辺で【見た】映像が過ぎり、凪の表情が曇る。
そんな凪の表情を前に、光秀は緩やかな足取りで距離を詰め、大きな手のひらで彼女の頭を軽く撫ぜた。

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