• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 出立



────────…

「ほう、中々旅人のそれらしい見目にはなったな」
「……ありがとうございます」

凪の姿を頭のてっぺんから爪先まで鷹揚に見やった光秀が特に感慨もなく掛けてきたそれに、凪も憮然としたまま同じく心無い礼を投げた。

明朝迎えに来る────その言葉通り光秀は朝日が昇り切る前に凪の部屋へと訪れた。
具体的な時間指定もなく、そもそも時間の感覚すらない凪が起床している筈もなく、締め切られた障子の向こうで薄ら見えた影につい飛び起きたのも無理のない事であった。
そんな慌てる凪の元へお千代が早朝にも関わらず、すべて把握していたかのように駆け付け、一通りの身支度を手伝ってくれたのである。
今の凪は昨日用意された煌びやかな小袖ではなく、落ち着いた紺を基調とする旅装束用の袴姿だ。中背程まである黒髪は、今は右肩から横に流す形でひとつに結えられている。

「ほら小娘、荷を貸せ」
「別に抱えたままでも大丈夫ですよ。そこまで重たくないですし」
「いざという時、荷を腕に抱えたままでは対応が遅れかねないからな。言うことを聞いて、ここは大人しく渡しておけ」
「いざっていう事が起きるようなところに行くんですか?これから」

両腕に抱えられる程度の、さして重さを感じない風呂敷包はお千代が昨夜の内から用意してくれていたもので、中身は凪自身も知らない。それへ手を差し出し、まるで子供に言って聞かせるかのような光秀の言葉についじとりとした眼差しを向ければ、小さな含み笑いが返ってきた。

「さてな。だが、そもそも旅に危険は付き物と言うだろう?」
「…元々乗り気じゃなかったですけど、余計行きたくなくなりました」
「潔く諦める事だ。ところで小娘、お前一人で馬に乗れるらしいな?」

躊躇いがちに渡した荷を、繋いだ1頭の馬の馬具後方に括り付けながら光秀が問う。確定的なそれに目を瞬かせた凪は、つい本音のまま疑問を零した。

「なんでそんな事、光秀さんが知ってるんですか?」
「今朝、政宗から聞いた。本能寺から安土に至るまで早駆けで戻ったと言っていたが、あいつの馬裁きにこれといった動揺や疲労を見せなかったと感心すらしていたぞ」

(しまった─────っ!)


/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp