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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 軍議と側仕え



「信長様へ拝謁される前に、お支度を手伝わせていただいた女中から聞き及んでおりましたが、凪様は他の姫君とは違って、変わった御方なのですね」
「そうですか?(まあ実際本物の姫じゃないしね…振る舞いとかも正直分かんないからなあ)」
「はい、ですがとても気さくな方だと伺いましたので、わたくしも少し安堵しているのです」

作り立てと思わしき湯気が立ち上る膳を目の前に置かれ、そこから凪の斜め後ろへ控えるように正座したお千代は、しゃんと背筋を伸ばした綺麗な姿勢のまま、瞼を伏せる。落ち着いた雰囲気を思わせる、女性にしてはやや低めな心地よいアルトを耳にしながら、彼女の薄く紅を引いた唇が微笑みの形を浮かべている様を軽く振り向いて目にし、凪もつられるようにして僅かに笑った。

「私もお千代さんみたいに歳の近い人と知り合えて嬉しいです。不慣れな事が多くて、色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが…」
「それをお支えさせていただくのが、側仕えの務めにございますれば」

ここに至るまでは武将とばかり接触していたからか、同性で尚且つ歳が近そうだというお千代の存在は、神経を尖らせていた凪の心を少なからず和らげる。畏まり礼節を重んじながらも、必要以上に硬すぎない彼女の対応にも安堵した。
ガチガチに姫扱いされても、現代の一般人には重荷でしかない。

「さあ、冷めない内にどうぞお召し上がりくださいませ。既に毒味は済ませてございます。御安心くださいね」
「毒味…!?」

事も無げにさらりと言われた一言に、つい目を見開いて勢いよく膳へ向き直る。煮物に焼き魚、汁物と香の物、麦飯に雑穀類が混ぜられた主食のご飯。この時代で考えれば上質すぎる献立を前に、毒味という現代との大き過ぎるギャップを感じざるを得ない。
それでも、食べなければ生きてはいけないのだ。人の身体は否応なしに空腹になるし、美味しそうで暖かな食事を前にすれば、食欲も湧く。
なにより、主食と汁物、あるいは主食と香の物しか食べられないのが割と普通な生活である事くらいは知識がある。そんな中でここまで豪勢な食事を与えて貰える事実には感謝しかない。

「じゃあ…いただきます」

しっかり両手を合わせてから、箸を手に取った。

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