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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 摂津 弐



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摂津国、有崎城下町潜入二日目。

白雲のない穏やかな晴天の下、空の中天近くまで昇った太陽は燦々とした輝きと熱を注ぎ、時折自然の香りが運ばれて来る風は少し生ぬるさがあったものの、それでも肌をかすめれば心地が良い。

凪が戦国時代にやって来てから今日で早五日目だが、太陽が高い位置にある日中、明るい時分に町を歩いたのは実にこれが初めての事だった。
夕刻に比べればさすがに城下町にも活気が感じられる。
山城国で一夜の宿として立ち寄った町よりも規模の大きなそこは、昨日歩いた時よりも明るく賑やかな様子を伝えて来ていて、どことなく物々しさのある印象を抱いていた凪の意識を少なからず覆していた。

しかしながら、折角日中に城下を歩いているにも関わらず、あいにくと凪の気分はあまり良いものではなかった。
それは昨夜、眠る前の光秀との他愛も無い攻防戦と、今朝のこれまた他愛もないやり取りが起因している事は、言うまでもない。

「芙蓉(ふよう)、一体何をむくれている?折角の可愛い顔が台無しだぞ」
「…誰の所為かは自分が一番わかってるんじゃないですか?」

隣を歩く男が、分かりきった理由を敢えて含み笑いのままで問いかけた。
頭ひとつ分以上高い位置にある長身な光秀の横顔を上目で見やった凪は、普段程ではないものの眉間に薄い皺を刻む。
周囲を気遣ってか、控えた調子で文句を言った彼女の様子など慣れたようで、光秀は双眸をそっと眇めては首を軽く傾けた。

「…さて、何のことやら。それより、もっと楽しそうな顔をしたらどうだ。その膨れた頬のままでは、情人同士の逢瀬には到底見えないぞ」
「この顔は元からなんです、知りませんでしたか」
「俺の記憶では違った筈だが。…どれ、中に何が詰まっているのかつついて確かめてやろう」

大勢の人々が行き交う往来の中、光秀はやはり憮然としたままである凪の白い頬へ片手を伸ばし、指先でふに、と二度程それをつついてやる。

「っ!!やめてください…っ」

頬を指でつつかれたその感触と行動が無性に恥ずかしく、尚且つ人前で行われたという事実に耳朶を染めた凪が文句を言って光秀から距離を取ろうと数歩斜め後ろ側へと下がった。

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