第3章 白に染まる
「はい、どうぞ。毎週毎週ありがとうございます。」
「ああ、ありがとな。」
「ところでスティングさん、いつもアレンジしないで買って頂くんですけど何に使われてるんですか?」
「ああ、これな。食うんだよ。」
「食用…なんですか?」
「オレ、白の滅竜魔導士だから。好物が白いモンなんだ。」
「ええ!そうなんですか。」
「オレ、結構有名人なんだけどなァ。」
「すみません、私魔法のことは全然存じ上げなくて…」
「気にすんなって、そっちのが楽でいいや。」
「フフ、良かったです。」
彼女はいつも少し目を細めて首を傾げ、肩をすくめて笑うのだ。
フィオーレでは白竜のスティングと言えば知らない者はいないほどの有名人だった。その外見と知名度から女性に言い寄られることもしばしばありうんざりしていた。そんなときにふと目に入ったのがリアのいるこの花屋だった。彼女の飾らない態度がスティングにはひどく心地よかった。
「好きなんだ。」
ふと口からそんな言葉が零れた。
「はい?」
「え、あ…。いや!リアの育てた花が!」
「フフッ。本当ですか?ありがとうございます。」
「じ、じゃあな。また来るよ。」
「はい、お待ちしております。」
咄嗟に言い訳みたいな言葉が口をついて出た。あながち嘘ではないのだが。彼女が心を込めて育てた花は本当にどれも生き生きとして美味しかったのだから。
店のドアを出たところでふと振り返ってみると店内と店先に先週よりも白い花が多いことに気付いた。ガラス戸越しに彼女の穏やかな微笑が見える。まだこちらに手を振っているようだ。
もう少し、もう少し白が多くなったら伝えよう。今にも溢れそうなこの気持ちを。