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フェアリーテイル 【短編集】

第19章 カウンター


「あれ?ラクサス、今日はコート着てないの?」

 ルーシィに声を掛けられて俺はそういえば、と思い至る。酒を飲んでいる間に椅子の背もたれに掛けておいたはずのコートがいつの間にか無くなっていた。

「…?どこ行ったんだ?」

 別段盗られて困るモンでもねェが、俺の持ち物を盗る命知らずなんざ居ないだろう。無断で借りる奴と言えば…

「ああ。」
「心当たりがあるの?」
「十中八九、リアだろ。」
「あー、そうかもね。」

 リアのが俺のコートを持って行く場所など既に知っている俺は迷うことなくギルドの2階に足を運んだ。

 階段を上がっていくと中央のソファーの座席に掛かっているコート。コートがやや膨らんでいるのとそれが規則正しく上下しているのを見て俺はまたか、と思う。

「オイ、リア。」

 その塊に歩み寄って躊躇うことなくコートと奪い去る。ソファーに丸まるようにして寝息を立てていたのはやはりリアで。
 んぅ、とやたらと甘ぇ声を出してコートを探すように手を伸ばしている。見ているのが俺だから良いものの、他の野郎だったらどうすんだ。
 コートを反対側のソファーに放って、彷徨っている細い手を絡め取る。さっきまで寝ていたためか、やたらと暖けぇ手を強く握り込んでソファーに肘を着き…

「おら、起きろ。リア。」
「むぁあ!?」

 思惑通り飛び起きたリアの頭を難なく避けて、涙目になっているこいつに笑みを向ける。

「今!耳!!」

 あァ、と返事をすれば目を瞬いて眉間に皺を寄せる。こいつの弱点が耳なことも、低音に弱いことも知ってる。

「勝手に人のモン持ってったんだ、これくらいのことで喚くなよ。」
「使ってないんだからいいじゃない!」
「寝るんなら毛布置いとけよ。」
「嫌よ!」
「あァ?何でだよ。」

 俺の親切な提案を間髪いれず否定するこいつ。訳を尋ねると何やら言いにくそうに視線を伏せる。そのまま数秒間。

―何なんだよ、一体。

 このままじゃ埒が明かねェと知った俺は強硬手段に出た。視線を彷徨わせたままのリアの顎を掴んで上を向かせ、唇が触れるか触れないかギリギリのところで耳に囁く。

「…リア、言え。」





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