第15章 待ち人
雑誌に載っていた町の酒場まではるばるやって来たが、ここですぐに見つかるはずもなく、俺は酒場であの時のように情報を探していた。
くそ、俺らが脱獄した事は結構なニュースになったはずだ。その上、情報収集を生業にしているあいつがそのことを知らねえはずがねぇ。
俺の顔なんざ見たくもねぇってか。そうだとしても、俺はもうあいつを離しちゃやれねぇがな。
牢獄に居た間どれだけあの女に焦がれたことか。この俺が、女一人のためにこんなザマになってるなんてな。
「どうした、キュベリオス。」
俺の隣でとぐろを巻いていたキュベリオスが突如とあるテーブルの方へと向かった。その席に座っていた女を締上げるように巻き付く。
「久しぶりだねぇ。キュベリオス。」
心地よい低音、その音が紡がれる厚めの唇、更にその下にある黒子。
「リア…。」
「…コブラ、遅かったじゃあないか。」
「…来い。」
会ったら色々言いたいことがあると思っていたが、そんなものどこかへ行っちまった。リアは今までにないくらい、弱った顔で俺を見詰めてた。そんな顔を他の野郎どもに見せられるかってんだ。
俺の取っていた宿の部屋でリアをソファーに座らせた。
「…てっきり、もう私のことはさっぱり忘れたのかと。」
痛いくらいの沈黙を破ったのはあいつからだった。そこからはとめどなく、俺への恨み言が出てくるが、どれもが可愛いものだった。
俺は時折相槌を打ちながらリアが満足するまで黙って受け入れていた。
「…どうして、連れて行ってくれなかったんだい!」
とうとう切れ長の目に溜め切れなかった雫が零れた。そんな場合じゃねぇとは思ったが、つい口を滑らせた。
「綺麗なモンだな。」
「はぁ!?」
「お前を喪うかもしれねぇと、思った。」
「私が毎日毎日どれだけ、アンタを喪うことに怯えてたと思うんだい?」
「すまねぇ。」
「アンタにとって私はただの遊びだったのかって何度思ったか。」
「でも待ってたんだろ。」
「アンタを、愛してるんだもの…。」
リアに先に言われちまうとはな。耐えきれずに俯いて震える女の肩の頼りなさに、たまらずその身体を抱き込んだ。
じわりと身体に伝わった温もりにようやく、足りなかったパーツが埋まった気がして、そっと囁く。
「愛してる。」