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フェアリーテイル 【短編集】

第14章 芳香


 そのまま2人でいたたまれない時間を過ごして、ようやく彼が口を開く。

「ごめん。オレ、リアがいつも気にしてないみたいにしてくれてることに、甘えてたんだ。」
「…私も、意地になってた。スティングを信じるって決めてたのに。」
「リア、オレはずっとお前が好きだ。他のヤツが何と言おうと、オレにとってはお前が一番かわいい。」

 頬にそっと手を添えて囁くように、言い聞かせるように、私に届けてくれる言葉は私の中の劣等感を攫って行ってくれた。それでも素直じゃない私は顔を背けてしまう。

「…こんな女のどこがよ。」
「ほら、そんなとこが。でもこっちは向いて欲しいな。キスできねぇ。」
「…ん。」

 唇同士がそっと重なった。じわりと彼のやや高い体温を感じる。
 彼は啄むようにキスをするのが好きで、そのためいつもキスの時間は長くなる。

 彼が満足するころには私の唇の感覚はほとんど失われていた。

「十分ふわふわしてやわっこいぜ。」
「…バカ。」
「ははっ、そう言うなって。」
「次こんなことがあったら許さないから。」
「ああ、肝に銘じとく。」

 結局、彼には叶わない。惚れた者の弱みとでも言おうか。でも、この事があってから彼は女性に絡まれても自分で躱すようになったし、今まで以上に私へのスキンシップが激しくなったような気がする。

 ホラ、今日もまた私の大好きなあの笑顔でこちらに向かってくる。私の大好きな人。



「ところでスティング、どうして女性の香水の匂いなんて気になったんだ?」
「ああ、リアからいつも甘い匂いがするだろ?記念日とかにあいつがつけてる香水を送ろうかと思ったんだ。」
「うん?リアは香水などつけておらぬぞ。」
「そうらしいんだよなぁ。でも甘い匂いしてるよな、ローグ?」
「いや、それはお前だけなのでは?」
「おかしいなー。」

『『お前がリアの匂いに敏感すぎるだけなのでは?』』
 
 スティングの周りに居た者たちは声を上げることなく、満場一致した。


 そしてこんな会話が繰り広げられていることはユキノと共にスティングの好きな香水を探しに行ったリアの耳には当然入らなかった。














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