第14章 芳香
「帰ったぞー!リア!!」
「スティング、まずは報告を済ませてからだ。」
「ローグやっといてくれ!」
「マスターなんだからしっかりしてよね。」
「リア!帰ったぞ!」
「お疲れ様、2人とも。」
「おう!」
「ああ。」
仕事から帰ってすぐに私を探す犬みたいな人は、私の彼だ。四六時中ついて回る彼を可愛いと思ってしまう私も大概だとは思うが、いかんせん私も彼のことが好きなのだから仕方ない。
「今日も仲が良くて何よりじゃ。」
「お嬢、今日は仕事行かないの?」
「ああ、たまにはゆっくりしようと思うてな。」
「そっか。」
こうして私の日常は穏やかに過ぎていくはずだったのだ。彼に擦り寄る甘い声を聴くまでは。
「スティング~。この依頼なんだけど…。」
「お?ああ、それか。」
スティングが大魔道演武で素晴らしい活躍を見せて、若くしてマスターになってから、どうも女性が寄ってくるようになった。そりゃ、もともと端正な顔立ちだし、笑った顔も素敵だし、強いし、何より優しい。そんな彼を世の女性が放っておくわけもなく、彼は名を上げる前からしばしば女性から誘われることが多かった。大魔道演武後は言わずもがな、それに輪をかけてモテている。
私と彼の付き合いはかれこれ3年になる。彼が強さに固執していた時も私は彼に寄り添ってきたし、彼が女性に言い寄られたくらいで彼を疑うことなどない。
―がしかし、そうは言ってもやはり、面白くはない。
今ちょうど話している子をチラリと盗み見る。甘い声、甘い匂い、くるりとした大きな目、華奢でいて軟らかそうな女の子らしい身体。
私は普段は匂いで相手に気付かれてしまい、戦いの邪魔になるかもしれないので香水はつけない。それに体つきだって彼女みたいに細くもないし、それでいて柔らかいわけでもない。彼のことを信じているとはいえ、彼の隣に立つのが本当に私でいいのかと思うことはある。もっと可愛くて、護られるような子が、いいのではないかと。
いつもの通り少し悶々としていると、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。