第7章 黒子
「フ、フリード…さん!」
「フリードでいい。」
「私の名前…。」
「ん?挨拶の時に聞いたが、違ったか?」
「いえ!合ってます。覚えて頂いてるなんて。」
「畏まらなくていい。ルーシィ達には敬語じゃなかっただろう?」
「いいんですか?」
「ああ。」
「…分かった。」
「これから仕事なんだが…その、一緒に来ないか?」
「え?雷神衆の2人は?」
「エバはエステ、ビックスローは新しい人形探しだそうだ。」
「私で足手まといにならない?」
「あの時より魔力量が格段に上がってる。今のお前なら大丈夫だろう。」
「あの時?」
「村の外れで魔物に襲われただろう?」
「覚えてたの?」
「ああ、印象的だったんでな。」
「印象的?」
「その、目の下の…涙黒子が。俺と同じ位置にあるだろう。」
かぁっと顔が熱くなったのが分かった。思わず俯いてしまう。これは夢か何かだろうか。
「おい、大丈夫か?」
「…大丈夫!ク、クエストボード見に行こ!」
「…?ああ、そうだな。」
顔を覗き込まれそうになって慌てて立ち上がる。思いがけず彼と距離を縮めることができたのはこの上なくうれしいが、一緒にいると挙動不審になってしまうことだけは気を付けないと。
そうしてクエストボードに並んで向かっていく2人を見ながら笑っている者が2人。
「フフ、やっっとフリードが動いた。二人ともほーんと奥手なんだから。」
「ミラさん面白がってしかないですよね。」
「あら、ルーシィもじゃない?」
「まぁ、否定はしませんけどね。」
「フリードがあんなに女の子に対して積極的になるなんてね。よっぽど忘れられなかったのかしら。」
「リア本人もフリードからの視線に全く気付いてないんだもん。」
クエストを選んでいる間、お互いのことを意識しすぎて周りのことなど見えていない2人にはこの会話は届かなかった。