第5章 路地裏
女性の首には醜い焼き印があった。
この国では奴隷は違法であるはずだが、完全に人身売買が無くなったわけではない。一定数この女性のような奴隷は存在する。
主が目を離した隙に必死に路地裏に逃げ込んで意識を失ってしまったのだろうか。
ここまで近寄っておいて見なかった振りなどできるはずはない。
「一度ギルドに連れて行った方がいいだろう。」
「フローもそうもう。」
女性の膝裏と背中に腕を回し、抱き上げる。完全に意識のない人間を抱き上げるのはかなり重労働のはずだが、ろくに食事を与えられなかったその身体は重量をあまり感じさせない。
抱き上げたことによって白金の帳に隠れていた顔が露わになった瞬間、息を呑む。伏せられた瞼は髪と同じプラチナブロンドの長い睫に縁どられ、すっと通った鼻筋に小さな口。血色はやや悪いがそれでも生来の美しさを損ねてはいなかった。
「ローグ?早くしないとかわいそう。」
「…ッ。ああ。すまない、行こうか。」
女性の顔を見てこんなに心を揺さぶられたのは初めてだった。名前は何というのだろうか。行く宛てが無いのならしばらくギルドにいてくれるだろうか。
不謹慎だとは分かっていても彼女を最初に見つけたのが自分で良かったと思う。彼女の容態が心配であるのと、瞼の奥に隠された瞳を早く見たいので自然にギルドに向かう足は速くなった。