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フェアリーテイル 【短編集】

第5章 路地裏


 今にも雨が降り出しそうな曇天。やや水分を含んだ空気が肌を撫でる。隣を歩くフロッシュに目を向ければこんな天気にも関わらずその足取りはいつもより軽快だ。

「今日は楽しそうだな。」
「なんだかいいことがある気がするんだぁ。」
「そうか。」

 またしばらくゆっくり歩を進めると突然フロッシュの足が止まる。

「どうしたんだ?」
「大丈夫~?」
「おい、フロッシュ。」

 俺の声など聞こえていないのか、道を外れて路地裏にひょいと入って行ってしまう。剣咬の虎の魔導士としても路地裏の無法者程度にはやられないという自覚はあるが、できるならあまり面倒事には巻き込まれたくないのだが…

 良からぬ輩に目を付けられる前にフロッシュを連れ戻さないと。

 そうして路地裏をゆっくり進んでいく。
「フロッシュ。帰るぞ…ん?」

 フロッシュのすぐそばに女性がいる。背を完全にレンガ造りの壁に預けてぐったりと座り込んでいる。珍しい白金色の髪がその顔を覆い隠しているが、地面に投げ出された手足の線の細いこと。

 近寄ってみるとその肩が静かに上下していることからまだ息があるのだと理解する。その剝き出しのうなじに目をやった瞬間に自分の眉間に皺が寄るのが分かる。

「…奴隷なのか。」

 
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