第8章 大切で残酷な暖かい過去
レティシア
「私は…許婚なんて、いらない」
フェリックス
「でも、君の御両親は喜んでくれているよ」
レティシア
「親が勝手に決めた婚約…でしょ」
その少女の言葉にフェリックスの表情が僅かに寂しげに崩れる。
フェリックス
「そうだとしても。俺は君が婚約者になってくれるの嬉しいんだ。…俺は君が好─」
レティシア
「それ以上言ったらあんたの口を裂く。…親の言いなりになって、そうですか結婚しますなんて思わないで。私は嫌。あの人達の言いつけなんて守らないから」
言葉を遮って吐き出されるそれは、暴力を振るわれ続け表情もなく弱々しかったレティシアと別人の様に強かった。
そしてそれは、どこかユリスの口調にも似ていたのだ。
だがその姿は少年に嫌われる所か益々、惹かせるものであった
勿論そんな事を知らないレティシアは呪文を呟いて身体を浮き上がらせると、どこかへ飛んでいってしまった
その日から数日が経った頃、レティシアは完全に実家に戻るのを辞め約束通りシンメに入学した。
それと同時に非魔法使いにも関わらず優秀だったルシアンは、13歳でシンメを卒業し候補生にはならずヒガンバナ基地へ配属された
レティシア
「ルシアンと一緒にシンメに通いたかった」
ルシアン
「仕方ないだろ。…それより、入学テストはどうだったんだ?」
エドゥアル
「あ、僕もそれは知りたいな」
レティシアが入学し、ルシアンが卒業する頃にはユリスとエドゥアルは20歳になっていた。
それでもユリスの家に集まる事は変わらず
拗ねるようにユリスの膝に突っ伏していたレティシアだったが、ルシアンとエドゥアルの言葉に勢い良く顔を上げ
レティシア
「Sだった!」
エドゥアル
「おおっ」
ルシアン
「凄いな」
ユリス
「まぁ、俺の娘だからな」
ピースサインを出すレティシアの隣で自慢げに笑うユリスを見て、ルシアンとエドゥアルは苦笑する
エドゥアル
「何でお前が威張るんだよ」
ルシアン
「しょうがない。ユリスだから」
エドゥアル
「あぁ…しょうがないな」
ユリス
「おい、可哀想な奴見る目で俺を見るな!」
レティシア
「あはは…!」
いつも通り賑やかなやり取りにレティシアは楽しそうに笑う