第8章 大切で残酷な暖かい過去
それから月日は流れ、レティシアは持って生まれた魔法のセンスに磨きをかけ、体術や剣術…あらゆる分野で才能が開花し、それを見たエドゥアルは優秀なユリスと重なった。
約束の7歳の年、レティシアが定期的に実家に帰ってきた日を狙っていたかの様に部屋をノックする音が響いた
母
『話があるから、ここを開けなさい』
久し振りに聞いた母の声に反射的に驚いてしまうが、今はただ振るわれる暴力に怯えるほど弱くないレティシアは怯える事はなく。
ジルヴァに隠れる様に告げてからドアノブを回して扉を開ける
レティシア
「……何でしょう」
母
「今日は良い知らせがあるのよ」
母の声は気味が悪い程に嬉々としていて、レティシアは眉間に力を込める。
だが、それを気にしていない母は言葉を続ける
母
「シュヴァリエ家から婚約の申し出があったのよ。向こうの御子息も魔法が使えるから貴女と気が合うんじゃなくて?」
レティシア
「…婚約…ですか?」
シュヴァリエ家、次期当主である息子は魔法を持って生まれたがフォンテーヌ家とは違い世間に公表し、両親は大事に育てた存在からの申し出だった。
母は魔法を嫌っているが、相手がシュヴァリエ次期当主であるからか魔法が使えても関係がないようで…その姿にレティシアは嫌悪感を覚える
母
「初めてフォンテーヌの役に立ったんだから、無礼な事しないでちょうだいよ?分かったわね。明後日ですからね」
レティシア
「ちょ…」
─バタンッ
捲し立てるように言いたい事を吐き出して部屋の扉を強く閉める。
レティシア
「何で私が…っ」
悔しさと腹立たしさを抑える様にレティシアは拳を握る。
その姿を見てジルヴァが心配する様に歩み寄り、脚に擦り寄ると少女は息を吐き出してジルヴァを抱き締める
吐き出しようのない感情を溜める事が出来なくなったレティシアは、家を抜け出しユリスの元へ向かった