第8章 大切で残酷な暖かい過去
ユリス
「怖かったよな。…ごめんな、1人にして」
レティシア
「ユリス、は…悪くっ…ない…助けて、くれて…ありがとう」
彼に抱きつきながらお礼を告げる少女の姿にやるせなくなる。
ユリスに抱きついて泣いていたレティシアは彼から離れると、何かを言いたげにユリスをチラチラと見上げる。
レティシア
「あのね…」
ユリス
「ん?」
レティシア
「ユリスが、買ってくれた帽子…飛んでっちゃって…、失くしたの…ごめんなさい」
ベッドの上に正座をして俯きながら告げるレティシアを見ると、何も言わずにユリスはそこから離れる。
それを目だけで見たレティシアは、やっぱり怒らせたんだと更に頭が下がってしまう
ユリス
「ほらこれ。拾っといたぞ」
レティシア
「…ぇ…」
寝室に戻ってきたユリスが、下げていた少女の頭にふわっと風に攫われた筈の帽子を被せた。
飛んでいった筈の帽子が頭にある事が信じられなくてレティシアは何度も唾を触る
だがこれは勿論、飛んでいった帽子ではない。
帰宅途中に寄った帽子屋でユリスが購入したもので、彼が見た少女に帽子がなかった為、もしかしたら…と購入したのだ。
そんな事を知らない少女は嬉しそうに笑って隣にいたジルヴァを抱き締める。
レティシア
「良かった…大事な帽子、無くならなくて…」
ユリス
「気に入ってたのか、それ」
レティシア
「見た目も好きだけど…これ、ユリスが選んでくれたから」
予想していなかったレティシアの返事にユリスは数秒固まるが、次には笑いを零していた
ユリス
「俺はお前を1人にしたりしねぇからな」
突然の言葉にレティシアは首を傾げる
ユリス
「俺がずっと一緒に居てやる」
レティシア
「…っ…ほんと?」
ユリス
「本当」
レティシア
「ありがとう…」
いつかはユリスも離れてしまう、という不安があったのか少女はユリスの言葉に嬉しくてまた泣き出してしまう。
それをユリスは優しく微笑みながら見詰める
こうしてレティシア、誘拐は未遂に終わったのだ