第8章 大切で残酷な暖かい過去
男1
「お前…東洋人だな」
ルシアン
「またそれかよ。…あんた等みたいな奴は同じ事言うのがテンプレなわけ?」
男1
「巫山戯んな…!」
3人同時にかかってきたのをルシアンは軽い身のこなしで避ける。
ユリス達と知り合ってから稽古を付けてもらっているおかげで、男達の動きは遅く見えた
男2
「くっ…そ…!」
男3
「ゔ…!」
頬に拳を入れたり、鳩尾に膝を入れたり…回し蹴りと様々な攻撃に男達はルシアンに圧倒され、隙を見て慌てて逃げていく。
それを見送ったルシアンは急いでレティシアに駆け寄り優しく抱き上げる
ルシアン
「レティシア…、おい…大丈夫?今…ユリスの所に連れて行ってやるからな…!」
レティシア
「…っ…ぁ…、…ルシ、アン……ありが、とう…」
見た事がない程に顔は腫れあがり、口から血が垂れた痕が残るまま笑みを浮かべ掠れた声でお礼を述べるレティシアに、ルシアンは表情を歪めて抱き締める
ユリス
「大丈夫か!?」
今すぐ連れて行かなければとルシアンが立ち上がった瞬間、聞こえてきたユリスの声にルシアンは振り向く
彼もまだ11歳の少年だ。ユリスの姿に酷く泣きそうになった
ユリス
「レティシア…待ってろ、今治してやるからな」
エドゥアル
「ユリス、さっきの……っ、これは酷い…」
後から現れたエドゥアルも幼い少女の酷い姿に顔を顰めた。
母親に暴力を振るわれていた時よりも痛々しいそれを早く治してやろうと、ユリスが呪文を唱えると徐々に傷も腫れも苦しそうな表情もなくなった
ユリス
「てめぇ等……覚えてろよ」
男1、2、3
「ひっ…!」
それを見て安心したユリスは、遅れてやってきたエドゥアルが引き連れてきた先程の男3人を睨み付けて低く呟いた。
男達はその殺傷能力がある瞳の鋭さに身体を震わせた
ユリス
「ルシアン…ありがとな。お前も怖かっただろ」
ルシアン
「…っ…平気だよ」
ユリスの暖かく大きな手に頭を撫でられ泣きそうなのを誤魔化すようにルシアンは顔を逸らす