第8章 大切で残酷な暖かい過去
皆にとって楽しい毎日が続いていたある日、それは突然訪れた。
その日、レティシアは久し振りに家に帰ろうと街を歩いていた。
本当はユリスが送る予定だったが急遽、呼び出され1人で帰る事になった。だが、ユリスは最後まで心配して人が多い所を通れと念を押しゼフィランサスへ向かった
レティシアはオレンジの空を見上げながら脚を止める
レティシア
「あ…!」
空を見上げていた少女を強い風が襲い、ユリスから貰った帽子を攫って行った。
レティシアは小さい歩幅でそれを追うも勿論、追い付かず
大好きなユリスから貰った帽子が飛んでいってしまった事に肩を落とし
レティシア
(ジルがいたら…取ってくれたのに)
この日ジルヴァはユリスの家で気持ち良さそうに眠っていた為、起こすのが可哀想だと思ったレティシアは本当に1人で帰っていたのだ
とぼとぼと歩いていると少女の目の前に大きな影が3つ並んだ。
少女が見上げるとユリスやエドゥアル、ルシアンとは違い唇を歪にゆがめ、下品な笑みを浮かべている男達の姿にレティシアは息が詰まる
男1
「ん?こいつ…前にテレビに映ってたフォンテーヌ家の娘じゃないか?」
1人の言葉に他の2人もレティシアの顔を良く見て、あぁ!と手を叩く
男2
「おお、本当だ」
レティシア
「……っ…」
男3
「お嬢ちゃん。君フォンテーヌ家の子だろ」
自分がフォンテーヌ家の子であるのがバレた事の焦りと気味の悪い笑みの恐怖に、ワンピースを両手で掴むも…じっと男達を見上げ
レティシア
「だったら…何」
男2
「君を誘拐してフォンテーヌ家から金を大量に頂こうと思うんだよね」
男3
「名案!」
しゃがれた声で述べられる言葉に男達が、ぎゃははと笑えばレティシアの身体は震える
レティシア
「わ、私を誘拐しても…お金は貰えないと、思う。私は嫌われてる、から」
少女の震えながら告げられた言葉に、男達は一瞬きょとんとしてからまた笑い出す
男1
「ははっ、そんな嘘通じないぞ」
3人の内の1人が脚を踏み出し、少女の幼い腕を掴むと恐怖に覆われていたレティシアは、反射的に魔法を発動させて腕を掴んだ男を飛ばしてしまった