第8章 大切で残酷な暖かい過去
自分を見詰めたまま動かないユリスを見てレティシアは、不思議そうに首を傾げる
レティシア
「…ユリス?」
嫌な思い出を良い思い出に変えてくれたレティシアをユリスは思わず腕の中に収める
ユリス
「全く…何でお前みたいな優しい子が嫌われたんだろうな。ありがとう、レティシア」
涙声になりながら腕を緩めたユリスの額とレティシアの額が重なり、グリグリと額を擦らせるとレティシアは声を上げて笑う
落ち着いたユリスはソファに座り直し、レティシアを見詰めた
ユリス
「レティシアが、その絵本を欲しがったの…自分に似てたからか?」
レティシア
「うん。…お姫様は悪い魔女に捕まってたの、私は母様に…捕まってたから。でもね、王子様がお姫様を助けてくれる…ユリスは、私を助けてくれた」
ユリス
「そんなに格好良いもんだったか…?」
当時を思い出しても自分の接し方は、そんなに褒められるものでは無かったような気がして苦笑するが、レティシアはユリスの言葉にぶんぶん首を横に振る
レティシア
「ユリスの方が、格好良いの」
ユリス
「何でだ?」
レティシア
「ユリスは2人分だから…!」
ユリス
「は…?」
普段は賢い部類にはいるレティシアだが、テンションが上がったレティシアは本来の子供らしさが出ているようだった。
ユリス
「俺は2人分ってどういう事だ?」
レティシア
「王子様は赤い目でしょ?でも、ユリスは黄色い目でしょ?…2人分の目なの」
ユリス
「お、おう…分かったような…分かんねぇような」
取り敢えずは自分の方が格好良いという事だろうかと、ユリスは納得させるしかなかった。
エドゥアル
「おーい、入る……あれ、ユリスお前…どういう心境の変化だよ…」
開けに行くのが面倒だと渡している合鍵で入ってきたエドゥアルが、眼帯をしていないユリスを見て驚く
ユリス
「あー…俺は2人分らしいから」
エドゥアル
「はぁ?」
ユリスが笑いながら答えるとエドゥアルからは当然の反応が返ってきたが、隣で嬉しそうに何度も頷くレティシアにそれ以上は聞けないエドゥアルだった─…