第8章 大切で残酷な暖かい過去
ソファに脚を組んで座りながら本を読むユリスの隣でレティシアは絵本を読んでいた。
レティシアはこの絵本が大のお気に入りだった。
王子様が囚われたお姫様を助けるという物語は、少女にとって重なる部分もあって好きなのだ。
すると、レティシアは読んでいた絵本を閉じ…チラチラと遠慮気味にユリスに視線を向けていたが、放り出していた両脚をソファに上げユリスの方へ身体を向け彼の服を少し引っ張る
レティシア
「ねぇ、ユリス」
ユリス
「どうした?」
レティシア
「どうして、片方の目は隠してるの?」
ユリス
「好きじゃねぇから」
レティシア
「どうして?」
いつか問われると思っていた為、ユリスは本から視線を外さずに答える。
だがレティシアはそれだけで質問は止めず再度、疑問を投げる。
投げられる問いに初めて本から視線を外し、少女を見る
ユリス
「…怖いって言われたからな」
レティシア
「…見たい」
ユリス
「見ても何も面白くねぇぞ」
レティシア
「見せて」
ユリス
「ったく、ほらよ」
尚も食い下がるレティシアに、ユリスは本をテーブルへ置き片脚をソファに乗せてレティシアの方に身体を向け…今まで触れられただけで不愉快になっていた眼帯を自らで外し、誰にも見せないと決めていた左目を初めて少女に晒したのだ
レティシア
「………」
ユリス
「満足か、お嬢ちゃん」
じっと見詰めたまま何も言わないレティシアに、ユリスは揶揄うように声を掛ける。
それからすぐ、レティシアは笑みを零し
レティシア
「何だ」
ユリス
「ん?」
レティシア
「全然怖くないじゃん。隠してるの勿体ないくらい綺麗。…私はユリスのこっちの瞳も好き」
ユリス
「……っ」
レティシア
「後ね、この絵本の王子様も目が赤いの。…でね?この王子様は捕まってたお姫様を連れ出すの、ユリスみたいで…格好良いでしょ?」
ユリスの左目は赤く、それを1度怖いと言われてから隠し続けていた。
だが、目の前で必死に自分が伝えたい事を絵本の王子様を指さしながら説明してくれるレティシアの姿に、ユリスはその思い出すらも洗い流してくれる様な言葉に柄にも無く泣きそうになる