第8章 大切で残酷な暖かい過去
【ルシアン·ルーセル】
日本の、ある優しい夫婦の元に男の子が産まれた。
"葵"と名付けられた男の子の家は、裕福でもなければ貧しくもないが…とても大事にされ、幸せな家庭の中で育った。
両親は初めての子供である葵が可愛くて色んな場所に連れて行き、思い出を作り続けた。
葵が3歳の時の事─
母
「葵、おんぶする?平気?」
葵
「しない、あるく」
母
「分かった。…あ、ちょっと待ってね」
家に帰る途中でいつも寄る八百屋で母が止まると、手を繋いでいる葵も必然的に止まる事になる。
だが、幼い彼にはその待っている時間が少しであっても退屈になってしまう
本格的に悩み始めた母は思わず葵の小さな手を離して、野菜を両手に持ち吟味を始め。
葵
「トンボ…!」
彼を留めるものが無くなり自由になった葵は本能のままに空を飛ぶトンボを追い掛ける。
母の姿は見えるものの、その離れた瞬間を狙っていたのか黒塗りの車が葵の近くに停り、幼いながらに危険だと悟ったのか葵は逃げようとした。
だが、中から出て来た黒を纏った人物によって幼い身体は簡単に浮いてしまい…それと同時に母がそれに気が付いて顔を真っ青にする
母
「葵…!」
葵
「…っひ……おか、さ…っ…、っ……!」
車に乗せられ閉まるドアから、母が見た最後の愛息子は恐怖で怯え、涙で顔を濡らして助けを求める姿だった。
母
「葵…っ、ごめ…お母さんが、手…離さなかったら……ごめん、ごめんね葵…っ」
父
「あまり…自分を責めるな…」
母は家に帰ってからも後悔をし続け、そんな彼女の悲痛な姿に父は胸を締め付けられた─…
車の中で目隠しをされていた葵は何処かに移動され時々、揺れる何かに乗せられていた。
その間、暗闇の中で誰かに食事を与えられ暗闇の中で眠りにつくそんな日々が少しだけ続いた
「あの夫婦だろ」
「嗚呼。3歳くらいの子供が良いと望んでいたからな」
「3歳くらい…ってなると、こいつか」
「ちょっと、あまり乱暴に触らないで。怪我したらどうするのよ」
「あー、わりわり。東洋人は高値で売れるからなァ」
「そういう事を言ってるんじゃないわよ」
そんな汚い会話を繰り広げても幼い葵には理解が出来ず。