第8章 大切で残酷な暖かい過去
だが、そんな中で聞こえる何だか優しい声だけは怖い人ではない気が葵はしていた。
葵の他にも年齢がバラバラの子供が沢山、乗せられていた。
お金の為に子供を拐っては売ってを繰り返す組織に葵は捕まってしまったのだ。
そして、東洋人は高値で取引がされる為…良く拐われてしまう
「おい、そのガキだ。そいつを連れて来い」
その声が聞こえると周囲の空気が緊張に染る。
脚音は葵の傍で止まり誰かの手が小さな肩に触れた
「ごめんなさい。私には貴方を助ける術がないの…せめて、貴方が幸せになれる事を祈ってるわ」
耳元で聞こえる声は悲しく鼓膜を揺らす。
その優しくも悲しい声に送り出された葵は、目隠しを外されて感じる陽の眩しさに顔を顰め。
その眩しさに目が慣れてきた葵が初めて見た景色は…
男
「初めまして。…今日から君のお父さんになる、アサム·ルーセルだよ」
女
「初めまして、可愛い子。…私はミア·ルーセルよ。今日から貴方のお母さんよ」
日本とは全く違う街並みと、髪も瞳の色も葵と異なる男女が微笑みながら良く分からない言語で話す様子に、幼い彼は戸惑う
暗闇にいた時の人達は確かに葵が聞いた事がある言葉を話していた。
それが、売られてしまった葵が初めて体験した異国の地での出来事だ
母
「ルシアーン!ご飯よー!」
ルシアン
「はーい、母さん」
それから時は流れ"葵"と名付けられた少年は"ルシアン"として生活をしていた。
この頃には戸惑っていた言語にも慣れ、普通に会話が出来る程になった
売られた先は幸いにも暖かい家庭で、2人が本当の子供としてルシアンを育て愛した為、彼も2人を両親だと思えた。
勿論、2人はルシアンが拐われた子供だとは知らない
父
「ほら、ルシアン。これも食べなさい」
母
「あ、ちょっと。自分が嫌いなものをルシアンにあげないでよ」
ルシアン
「良いよ、母さん。僕これ好きだから」
母
「ルシアン、父さんを甘やかしちゃ駄目よ」
ルシアン
「はは、それって本当は父さんが言われなきゃいけない言葉だよね」
母
「あら、本当ね」
父
「おいおい…」
暖かい家庭でルシアンは毎日が楽しかった。