第23章 食い違いの悲劇
近付いてくるレティシアを見て、逃げなきゃ…そう思うのに何度試しても身体に力が入らない。
それに、怪我を負わされても怒るどころか柔らかい笑みを浮かべている。でも、彼女が笑顔で人を殺めるような性格であれば話は別だが…オリヴィアには、レティシアが襲撃者で悪い人間には何故だか思えなくて。
レティシアはゆっくりと手袋がはまっている右手をオリヴィアへ差し出す。でも、オリヴィアは差し出された右手の理由が分からない。手を見てから戸惑いと期待に揺れる瞳でレティシアを見る
レティシア
「あんたを…助けに来た」
幻聴だと思った。
逃げたくて、でも逃げる事が出来ないこの環境が聞かせる…自分に都合が良い幻聴なのかと。
自分の耳も言葉も信用出来なくてオリヴィアからは小さな声が漏れる
オリヴィア
「………う、そ…」
レティシア
「嘘じゃない。…私はオリヴィア…あんたを助けに来た」
優しい声に優しい笑顔…施設で見ていた家族以来、久し振りに見たそれに奥底から湧き上がる安心感の様なものから、オリヴィアの瞳は涙の膜で覆われる。
すると、不思議と身体に力が入り、気が付けばレティシアに抱きついていた。
レティシアは驚いて一瞬、目を丸くするもすぐに細めオリヴィアの頭を右手で優しく撫でてやる
レティシア
「良く頑張ったな」
オリヴィア
「……ぅっ……っ…」
溜め込んでいた涙を流すオリヴィアの頭を何度も撫でていたが、不意にオリヴィアの肩を掴んで少し離すと優しく親指でその涙を拭う。
レティシア
「ところで」
オリヴィア
「……?」
何を言われるのか分からなくてオリヴィアは首を僅かに傾げる。すると、レティシアは押さえていた左手を肩から離して
レティシア
「ほら、あんたがやった傷だ。ここで治癒魔法を使ってるんだろ?治せ」
オリヴィア
「あ…!勿論…その、ごめんなさい」
レティシア
「あんたが謝るのは間違ってるぞ」
オリヴィア
「え…?」
レティシア
「あんたにとっては得体の知れない奴が急に部屋に来たんだ。誰も来ない、だったら自分の身を守れるのは自分だろ。…良い判断だったと思うぞ」
そんな言葉をかけられると思ってい無かったオリヴィアは驚いてレティシアの顔を、じっと見てしまう