第22章 貴方の面影をなぞって
海が見える丘にある白い墓石の前には束になったシオン、スターチス、白いカーネーションが供えられ、風に花弁を揺らしていた。
シオンには"君を忘れない"。スターチスには"変わらぬ心"。白いカーネーションには"私の愛は生きています"…それぞれが常に彼へ抱いている言葉を持っている花達だ。
レティシアの心を表す為の花束。
目を覚ましたレティシアは羽織のポケットに手を差し込みながら墓石を見下ろしていた。
彼女の脚元に居たジルヴァは墓石を軽く叩き…彼なりに弔っているのだろう。
ルシアン
「…レティシア」
背後から聞こえてきた声にレティシアは特に反応する事もなく目を細めた。
ルシアンは特に話し掛けたりせずレティシアの寂しげな背中を見詰めてから墓石へ視線を移す
レティシア
「ユリス…怒ってると思うか?」
不意に投げられた言葉は細くて、強い風に攫われそうだったが何とかルシアンは掴み取る
ルシアン
「…まぁ、少なからずメディ司令には感謝してるだろうな」
レティシア
「そうか…」
ルシアン
「俺も司令に感謝してる。…レティシアが自分の力を嫌ってるのも理由もちゃんと理解しているつもりだ。それに、お前の人を助けたい思いで身体を張れる所は守護官の誰もが見習わなきゃいけない。…だが同時に怖くなる」
レティシア
「………」
ルシアン
「お前が俺の目の前で死ぬんじゃないか、いつか気が付いたら居なくなるんじゃないかって思うんだ。…そんなのユリスは…勿論、俺も望んでねぇよ。魔法を使える苦しさを知らない俺に言われても腹立つかもしれないが…ユリスがレティシアの為に教えた力を使ってくれ」
レティシア
「……使える使えない関係ねぇよ。だって、ルシアンは私の兄貴だろ?…それに苦しい思いはルシアンもしてる。魔法を使える苦しみと東洋人だと珍しがられる苦しみは少し種類が違っても、苦しいのには変わらない」
長年抱えたきたルシアンの思い。傍に居たからこそ実感するレティシアの自己犠牲の頻度は数え切れない。その度にルシアンは苦しんでいた。
だが、今回メディが与えたきっかけによってやっと告げられたのだ。ルシアンの思いを聞いて初めてレティシアは、自分が思っていたよりも誰かに大事にされて…思っていたよりも誰かを傷付けていたと理解する