第16章 正体
それと同時に幼いながらに、何やら喜びの様なものを感じた。
自分が居るから何か悪い事を辞めたのだと。
きっぱりと大事なものが出来て辞めたユリスと大事なものが出来ても辞められないアレクシは、彼女の中で全く違う。
嫌悪感を露わにしながらレティシアは、乗せていた脚も鎖骨へ這わせていた手も下ろしてアレクシを見詰める
レティシア
「私は別にあんたの家庭を壊したいわけでも、奥さんを傷付けたいわけでもない」
彼女の言葉にアレクシの表情を僅かな安堵が覆う。
レティシア
「ただ」
アレクシ
「…何か知りたい事が、あるのか」
流石は補佐官と言うべきか、彼の言葉から薄々感じていていたのだろうとレティシアは、脚を組みながら片方の口角を上げる
レティシア
「人なのか獣なのか分からない存在…」
アレクシ
「……っ」
レティシア
「やはり分かるようだな」
小さく反応したのを見逃さなかったレティシアの声にアレクシは、握った拳に唇を当てて戸惑いの表情を浮かべて何かを考えている。
それから少し経つと、ふぅっと大きく息を吐き出しレティシアを見詰めた
アレクシ
「あれは…」
─ PM : 22時 同刻 とあるBarのVIPルーム ─
広く薄暗い上品な空間に並ぶ2つの影。
1人はノア…そして、彼の隣で綺麗に巻かれた紫の髪を耳にかけ直した女性が彼のターゲットである、補佐官のサーラ·モラン。
ノア
「これ取り寄せておいたんです」
サーラ
「あら、これって凄く貴重なシャンパンじゃない」
ノア
「はい。サーラ補佐官と過ごせる貴重な時間なんで、その記念に」
アーモンド目を細めながらボトルを軽く掲げるノアの言葉にサーラは嬉しそうに頬を緩めて口を開く。
サーラ
「そんな事言って。…女の子達が言ってたわよ?貴方が全く遊んでくれなくなったって…ふふ、だから私こそ貴重じゃないかしら?そんな貴方が誘ってくれるなんて」
くすくすと口元に手を添えて笑う姿は色香が漂い、彼でなければきっと惑わされるだろう。
ノアは彼女から聞かされる話に、申し訳なさそうな笑みを浮かべながらグラスにシャンパンを注ぐ