第13章 憧れに似ているあいつ
マティス
「そうやって揉み合っているうちに…俺はその男を刺ししちまってた。不可抗力とはいえ…人を殺しちまったのは事実だ。今でも手に残ってんだ、そいつの肉を貫いた感覚が」
マティスは自身の右掌を見下ろしながら呟き、その手で顔を覆った。
マティス
「騒ぎを聞き付けてやってきた隣人の通報で俺は逮捕だ。部屋で呆然としてた俺を連れて行ったのがレティシアさんで取調べも彼女がやった」
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レティシア
「良いか?不可抗力なんか関係ねぇ。…あんたは人一人の人生を台無しにしたんだよ。オマケに自分の人生もな」
マティス
「…元々、俺の人生なんてろくなもんじゃねぇ。犯罪歴どうせ知ってんだろ」
レティシア
「嗚呼。だが、それが何だ」
マティス
「は?」
レティシア
「全部諦めてそっちの世界に入り浸ってまともに生きようとしてねぇだけだろ」
マティス
「真っ黒な俺が、まともに生きれる場所が何処にあるってんだよ」
レティシア
「それを止めるんだ。どうせ俺なんて、それを止めろ。…表でちゃんと生きる努力をしろ」
マティス
「巫山戯んな…今更、出来るわけねぇだろ。犯罪だらけの人間、誰が受け入れんだよ」
レティシア
「最初は上手くいかないさ。でも、どんなに文句を言われようが耐えて…行動で示すんだ。それで…しっかり反省して、一生その罪を背負いながら二人分、懸命に生きろ」
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マティス
「俺よりも遥かに若いのに強い子だと思った。…だが、その言葉は上辺で言ってんじゃないってすぐに分かった」
リアム
「何故…ですか?」
マティス
「重かったんだ。…あーいう言葉に説得力が出せるのは今までに深く辛い経験をしたからだ」
リアムはレティシアが暴力を受けていた事やユリスの事を思い出す。
守護官になってからも、きっと色んな経験をしているのだろうと容易に想像が出来た
マティス
「守護官は何奴も此奴も偉そうで嫌いだが、あの子は他の守護官とは違う。俺みたいな奴をちゃんと人として扱ってくれた。時々様子を見に来て心配してくれたり。…本当に優しい子だ。守護官は犯罪者を捕まえたらそれで終わり。罪を犯した奴のその後を気にかけてくれるのなんて、あの子くらいだ」
男は、それに…と言葉を続ける