第8章 大切で残酷な暖かい過去
レティシアが指揮官長になる4日前…彼女は妙な胸騒ぎに襲われながら任務をこなしていた。
ただ、そんな落ち着かない状態でやっても頭が普段通りの働きをするわけもなく、気持ちを落ち着けたくてレティシアはユリスが気に入っていた肉団子を詰めたお弁当を持って彼の元へ向かう為に席を立ち牢獄へ下りた
レティシアは牢獄に脚を踏み入れ異様な空気に顔を顰め、慌ててユリスが居る奥の牢へ向かう
レティシア
「ユリス…!!」
コンクリートの部屋にレティシアの悲鳴にも似た声が響いた。
血を流して倒れているユリスが、床にぐったりと横たわっておりレティシアは慌てて扉を開けユリスの上体を抱き上げる
レティシア
「誰がこんな事をっ…ユリス…待ってろ、今治して─…」
ユリス
「それは良いから聞け…」
掌を翳すレティシアの手首を掴んだユリスの遮る弱い声に、レティシアは涙をぐっと堪えて首を振る
レティシア
「治ったら聞いてやる!」
ユリス
「レティシア…お前は、お前が正しいと思った事を…これからもやっていけ。…それが、誰かを助ける事に…繋がる」
レティシア
「フィピテオ…!」
掠れたように告げられる声を耳にしながらも、レティシアはユリスの命を繋ぎ止めたくて呪文を呟く
ユリス
「あー…でも、俺の娘は無茶し過ぎるからな…」
レティシア
「黙って…それ聞いたら、ユリスが居なくなっちまう。ずっと、一緒に居てくれるんだろ…!」
遂に溜まっていた涙は零れユリスの頬へ落ちていく。
それを見たユリスは黄色と赤色の瞳を優しく細め血に濡れた手でレティシアの頬へ触れる
ユリス
「泣くな。ルシアンを、頼れ…良いな。…っ…俺の娘は立派で優しい子に育った、な…少し口が悪いけどな」
レティシア
「親のあんた譲りだ…くそっ、なんで治らないんだ!まさか…」
何かに気が付いたレティシアにユリスは、ただ笑むだけで。
ちらりとお弁当をユリスが見たのを確認すると、レティシアは慌ててそれを1つ摘み口元に運んでやる。
すると、ユリスは小さく1口噛み…嬉しそうにまた微笑む
ユリス
「やっぱり…美味い、な」
もう少しでユリスが居なくなってしまう、その事が苦しくてレティシアは涙が止められない