第8章 大切で残酷な暖かい過去
ユリス
「結果的に助かったろ」
レティシア
「ユリス…」
ユリス
「しかしあれだな。お前も俺と一緒でキレると"てめぇ"って言うんだな」
レティシア
「当たり前だろ。ユリスの娘なんだから。…今度は私がユリスの怪我、治してやる」
幼い頃、母からの暴力で受けた痣や誘拐されそうになって受けた傷をいつでも治してくれたのはユリスだった。
レティシアはユリスへ掌を向け
レティシア
「フィピテオ」
呪文を呟くと彼の身体にあった傷は徐々に消えていった。
するとレティシアは、断りも躊躇いもなくユリスのTシャツを捲り上げ、ユリスの割れて引き締まる腹部を晒しそこにあった傷も治す
ユリス
「おいおい…流石に何か一言、言ってから捲ってくれよ」
レティシア
「捲りました」
ユリス
「事後報告…」
場所が変わっただけで何も変わらないやり取りに、2人はどちらともなく笑っていた
ユリス
「レティシア。お前は、殆ど魔法を使わないな」
レティシア
「…まぁ」
ユリス
「良い思い出がないからか?」
レティシア
「ん。…魔法使えるせいで嫌われて、暴力振るわれたから。自分の力だけで出来るなら、嫌われた力に極力頼りたくない。でも、中々そうはいかない」
ユリス
「………」
レティシア
「使いたくないってのは変わんないけど、魔法があって良かったなって思う事はある」
ユリス
「何だ?」
レティシア
「人を助けられる。…今だってユリスの怪我を治せた。守護官になって、初めて魔法が使えて感謝された」
ユリス
「そうか。…けど、無茶し過ぎんなよ?」
レティシア
「分かってるよ、お父さん」
わざとらしく告げるレティシアの言葉にユリスは、幸せそうに笑った。
早くユリスをここから出して、同じ家に帰れる生活に戻りたいとレティシアは強く思うのだった