第8章 大切で残酷な暖かい過去
レティシア
「ユリス…」
ユリス
「泣くなよ」
冷たいコンクリートに脱力する様に座り込んだレティシアの瞳からは涙が零れ、ギリギリ入る隙間から手を差し込むとユリスは当たり前のように彼女の手を握る
ユリス
「お前の手…昔はもっとちっこかったのにな」
レティシア
「…ユリスの手が大きいってのもあると思うけど」
ユリス
「そうか?」
レティシア
「ん。…ユリス待ってて、すぐ出してあげるから」
気が付けばレティシアの口調は昔のものに戻っていた
ユリス
「…おう、ありがとな」
その後、暫くレティシアはその場に留まったが指揮官が居なきゃ駄目だろ、とユリスに言われ後ろ髪を引かれる思いのままヒガンバナ基地に戻った
─ 勤務時間 終了時刻 ─
レティシアはゼフィランサスのロビーの壁にもたれかかりながら、ある人物を待っていた
─コツ…コツ…
脚音が耳に届くと閉じていた瞼を持ち上げ、顔を向ける
レティシア
「…幼馴染をあんな目に遭わせるなんて、最低だな」
その人物はレティシアの責める声に、切れ長の目の中で光るサファイアブルーの瞳を彼女へ向け、眉を下げて笑む
エドゥアル
「あぁ、レティシア…指揮官就任おめでとう。…で、最低というのは僕がユリスを牢獄へ送ったって言いたいの?」
レティシア
「ふん…。ユリスに自分の罪を擦り付けたんだろ」
エドゥアル
「そんなの言いがかりだよ、レティシア」
レティシア
「なら、BTってのは何だ」
その隠語を聞くとエドゥアルは僅かに眉を反応させた。
見逃さなかったレティシアは、エドゥアルに近付き見上げる
レティシア
「それから、抑魔ってのは抑制魔法の略だろ。何を抑制させようとしてんだ」
エドゥアル
「勘弁してくれよ。…小さい頃から一緒に過ごした仲だよ、僕達」
レティシア
「それだけだろ。でも、ユリスは違う。私を育ててくれた親だ。私の親に罪を擦り付けた奴は、ただの敵だ」
強く言い放たれる言葉にエドゥアルは悲しそうに表情を歪めたが、すぐにいつもの笑みを浮かべ