第8章 大切で残酷な暖かい過去
それは"何かがいる"と理解するには簡単だった。
ユリス
「レティシア、ルシアン…もう少し下がれ」
原因を突き止めようとジルヴァの見ている闇を見ていたユリスが2人へ鋭く声を掛ける。
それに反応すると2人は理解出来ずに数歩下がる
─バキッ パチッ
レティシア
「……っ…!」
ルシアン
「……は…」
ユリス
「…大型魔獣か」
倒した木を踏みながら姿を現したのは狐の様だが身体はとても大きく、背中からは太い棘のような物が幾つも生えていた。
鋭い牙を剥き出し、真っ赤な目はレティシア達を捉えている
初めて見る大型魔獣の迫力にレティシアとルシアンは動けなくなっていた
ユリス
「大型魔獣は少し厄介だからな」
そう吐き捨てながらも右手に魔力をユリスが溜め込み始める。
何としても自分が守らなくては、そう思いながら
だが、それよりも素早かったのは大型魔獣の方で…
レティシア
「ジル…!!」
レティシアを目掛けて鋭い爪を持つ大きな手が振り下ろされるも、彼女の身体は避け方を忘れた様に固まったままで…そんな彼女を庇って手に噛み付いたジルヴァが飛ばされ木にぶつかる
ユリス
「リディープル」
まだ生成途中だった魔力球を大型魔獣の鼻先、目掛けて放つ。
すると、それが当たった大型魔獣は僅かに怯む
ユリス
「…そうか…。レティシア!」
レティシア
「へ…?」
ユリス
「手袋を外せ」
レティシア
「て、ぶくろ…?」
ユリス
「ジルの証つけたろ。ジルも、もう成長した頃だ」
レティシア
「けどっ…ジル、木に…っ」
ユリス
「元の実力じゃねぇからだ。…良いから、外せ」
今よりも幼い頃に刻んだ証を思い出したユリスの言葉に、レティシアは抱き起こしたジルヴァを見る。
その視線に気付いたのかジルヴァが小さく鳴くと、彼女はゆっくり頷いて…右手に着けていた手袋を外した