第1章 【氷月】ちゃんとお嫁に来て下さい
手の中に握りしめた、紺色のロザリオをぎゅ、と握りしめて分からないよう復活液の容器と一緒に懐に戻した。自分の瞳の色と同じ、その勲章。
……桜子の右頬には、十字架の様に綺麗に縦横交わる様に入ったヒビの跡。もうこれ以上は要らないだろう。
「で、私を起こしたからには『ちゃんとした』理由があるんでしょ?」服装を気にせず話す桜子に、見てられなかった部下が急いで服を差し出す。ありがとう、と言って服を着る。
「君向きの案件ですよ。所謂『軍師』、我が帝国の参謀になってもらいます」
「へえ?……それは確かに面白そうな案件だね」
桜子の瞳が煌めく。道場を辞める、と言った時に見た、やりたい事があると言った時の煌めく炎の瞳。
「行きますよ」服を着終えたのを見て氷月が踵を返す。
「氷月君、歩くの本当速いよねー」桜子がそう言いつつ、小学生の頃とほぼ変わらない身長で大股早歩きで横に並んだ。
……貴方の迎えが遅いから、迎えに来たんですよ。
今度こそは。君に、ちゃんとお嫁に来てもらいますよ。
氷月は心中だけで呟いた。
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「ねえねえ、氷月君」
そう呼ぶのはこの帝国内ではたった1人。
「何ですか」振り向けば、昔同様ニコニコと笑っている桜子の姿。
「新しい案が出てきたから、ほら」そう言って懐から大量に布が出てくる。インクが無いので、彼女は布に糸を縫い付けている。余りの量に、これは見るのも骨が折れそうだ、と内心溜息をついた。
「……よくこれだけ思いつきますね」見る側の気にもなって欲しい。皮肉を込めたつもりが、ありがとーと軽く返される。
未だに、あのロザリオは渡せて居ない。復活させてから数ヶ月が過ぎた。もうすぐ千空たち科学王国との戦争が始まるだろう。
「でさー…、これがね…」生き生きと話す桜子の顔を見ると、明らかに目の下にクマが出来ていた。
「酷い顔ですね」普通の女性なら怒りかねないセリフ。
「あ、これ?」彼女は何故か正しく氷月の言葉の意味を把握していた。目の下をトントンと叩く。
「いやー、策を考えるの楽しかったから最近寝てないんだよね。バレちゃったか」
「私をなんだと思ってるんですか」
少し腹立たしげに返した。
「え?お婿さんでしょ??」
………………。