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dcst 夢小説 短編まとめ

第3章 【ルリ】君にありったけの幸福を


「お父様、お願いがございます」
 巫女として跡を継がせる為に人払いをして、コハクに先は永くない事や百物語を継がせる意義を伝えたが、彼女は突っぱねた。あの馬鹿娘が、と憤怒する父親に、ルリは頭を下げた。なんだ、とコクヨウが尋ねる。
「彼に会わせて貰えませんか」
 彼が誰を意味するかは、コクヨウも直ぐに分かった。娘が誰を慕っているのかも知っている。だが巫女の夫であり、村長を継げるのは御前試合で優勝した者のみ。夫になれないどころか、存命すら危ぶまれる桜子にはルリの傍にいる権利はない。されど、語る余地くらいは与えても良いのではないか。コクヨウは渋々ながらもルリの提案に頷いた。翌日、ルリは無理をして村の外に出ようとした。されど身体が鉛のように重く言うことを聞かない。床に伏せりながら、桜子もこんな風に命を削られる苦しみを一人噛み締めているのだろうかと思いを馳せた。すると屋敷の外の階段下から、呼び掛ける声がした。
「ルリ。僕だよ。……覚えてるかな」
「桜子!っ、ごほっ」
「無茶はしないで。僕は今日は調子が良いんだ」
 君から会わせて欲しいと願いが来たからこうして馳せ参じた、と桜子が笑ってみせた。ルリが身体を起こして階下を見遣ると、杖を両脇の下に通した彼が淡く微笑んでいる。病状を聞くからに、彼と同じ病に罹っている事は知れた。その苦しみを己の身体で知るルリは、ジャスパー、ターコイズと静かに告げる。
「お願いします、彼と二人きりに」
 ルリの意図を汲んだ二人が、仕方がないとその場を後にする。二人きりになった瞬間、ルリは思わず叫んでいた。
「ばか!桜子!どうしてこんな無茶をするのですか」
「はは、数年ぶりに会って言う言葉がそれかい?ルリはまだまだ生きられそうだね」
 階段を駆け下りて、ルリは桜子に抱き着いた。ルリが病弱そうでいて、本当はお転婆娘な所があるのも彼は見抜いていた。これは松葉杖と言ってね、と彼が説明する。
「僕が考案して、カセキに作ってもらったんだ。外出した時に急に咳で辛くなった時も寄りかかれるし便利なんだよ。怪我をして足を折った村人にも使って貰ってる。これがあれば片足しか動かせなくても、外に出られるんだ」
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