第2章 露伴先生に触れようプロジェクト【岸辺露伴】
「せん、せ……?」
「あ、あぁ。分かってるさ」
今、彼女はボクの目の前にいる。怖いだろうに、必死でボクと___そして彼女自身と向き合おうとする姿にボクは胸を打たれ、そしてある衝動に駆られた。
ボクに絶大な信頼を置きながらも、過去のしがらみに捕らわれたまま震える彼女の身体を、このまま抱きしめてしまいたい。
そうして彼女を取り巻く全ての苦痛から、ボクが彼女を守ってあげたい、と。そんな気持ちを押し込んで、ボクはゆっくりと、彼女の小指に自身の小指を絡ませていく。
彼女は一瞬怯えたように全身を強張らせたが、やがて弱々しい力で握り返してくれたのだった。
ボクにはその事実が、何より尊いもののように映った。
今この瞬間が永遠に続けばいいとすら思う。
「……先生の手、震えてる」
「そうだな。ボクも存外、臆病なのかもしれない」
「先生がそんな調子だと、緊張も解けちゃいますね」」
「……フン、それはよかったな」
目を開いた彼女とボクは互いに視線を絡ませ、どちらからともなく笑い合う。まるで最初からそうあることが当然のように。
彼女の身体は、もう震えてはいなかった。
「プロジェクト、完遂しましたね」
「まずは一歩前進といったところだな」
「それもこれも、露伴先生のおかげです!先生に触れることができて、間近でお話ができて嬉しいなぁ……夢みたい」
あたりがふんわりと明るくなるような、眩しいほどの微笑を浮かべた彼女を見て、ボクは先程までの緊張でカチコチに固まっていた心が溶かされていくように感じた。
「夢じゃあないさ。これは現実だよ、君が君自身の力で掴み取ったんだ」
これから彼女はみるみる内に恐怖を克服し、自身を巣食うトラウマに打ち勝っていくのだろう。
それを喜ばしく思うと同時に、ボク意外の男にはずっと触れられないままでいて欲しいと願ったことは秘密である。