第1章 魅惑の唇
「翔ちゃん。ね、翔…」
…寝てる。
今日はどうしても帰らなきゃいけないから、そろそろ帰るって言ったら、自分の番組チェック一本だけ付き合ってって言われて。一緒に観てたんだけど…
『翔ちゃんてカッコつけてもイマイチカッコつかないよね(笑)』
って率直に言ったら
『んだよそれっ!?』
(案の定)怒られて。
『どーせ俺なんて?そんな…マツジュンみたいに?何やってもサマになる人種じゃありませんからね~、どーせっ』
(予想通り)スネられて。
ゴメンって言ったけど…わざとらしいふくれっ面でのシカト攻撃されてた。
私の感想が本音だってわかってるだけに、余計いじけちゃってて。でもたいしたことじゃないのは、お互いわかってて。
それでも、流れでツンキャラが出た以上、後に引けないんだよね、きっと。
それもわかってる。結構長い付き合いだし。どこでこの空気変えるか探ってる最中だってのも。
だからあえて何もしないで、こっちも出方を伺ってる最中だったんだけど…。
いつもうるさいくらい喋りかけてくる翔ちゃんが
そこまで求めてないってくらい、話しかけたら返してくれる翔ちゃんが
完全に黙ってしまうと、やっぱり淋しくて。
ていうか気持ち悪い、もう。二人で居て、この静けさって。
そう思いながらも、ほとぼり冷めるのを大人しく待ってたのに…
気付いたらホントに寝ちゃってるってなに!?ありえない戦線離脱なんだけどっ。