第3章 謎の女性
……その姿に、若干危機感を抱いてしまった事への罪悪感が湧く。
影響力云々はともかく、この人自身は何となくだがいい人そうだ。少なくとも、あの訳わっかんねー羽京とかいう奴よりはマシだし、最強二人の司や氷月の様な武力も恐らく無いだろう。
歌でみんなを纏める……つまり、俺たちがやろうとしてるリリアンの歌で寝返り作戦にもしかしたら障害になるかもしれない。
とはいえ、アメリカという国が復興してて銃という武器があるのなら問題無いのか?
「……ところでよ」
「?はい~」
「……葵、だっけか?その…なんか昨日司とかから質問とかされたか?」
「……?あー、クロム君の話ですか?」
「…!?お、おう!?」
「…私は特に武力とか無いので、昨日のその…捕まったお話は聞かれないんです~。羽京君の方が力ありますし……彼は頼れる右腕、って感じなので~。
一応皆さんがいっぱいお話してくれるので噂話とかでは国内の話を聞いて知ってはいますが…」
お力になれず大変申し訳ない…と頭を下げる葵。
いやいや!別にいいから!!と何とか慰める。
本来なら第一発見者の1人だから話を聞くべきだが、彼女より羽京の話が優先されたのか。……それとも、彼女自身の言うように、『はみ出し者』だから目撃者のカウントにすら入らないのか。
どっちみち、この人より羽京の方が発言力が強いのに違いは無いだろう。
「……あ。いっぱい食べたら喉乾きますよね?これ、どうぞ」
「おう、サンキュー」
竹筒の水筒である。……後にこれが汗を溜める用に使われる、脱獄アイテムになる。……が、この時のクロムはそんな意図は無い。
「……なあ、なんで来てくれたんだ?」
「……?牢屋ってヒマじゃないですか?私は石化してた時とか一人の時はお歌を頭の中で歌ったりしてたので暇つぶし慣れてますけど…
普通の人は違う、ってみんなに言われました~」
……歌、か。リリアンの凄い歌唱力をクロムは思い返した。
武力がなくてもこの司帝国でのし上がれる程の、歌。……聞いてみたい。
「……葵、その『アオさん』の歌って、聞けるか?」
「……そうですね~、また来た時にでも歌いますね」ふわり、と綺麗な微笑みを残し、葵は去っていった。
変わった人ーーという印象をクロムに残して。