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僕と彼女の共同戦線

第16章 おやすみの前に


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その日の晩。

牢屋に入れられた氷月とほむらは、夕食をとっくに終えていた。静けさの中で氷月はただじっと、瞼を閉じていた。未だ来ない眠気の中時間を潰していると、ふと外に誰か人が立つ気配がした。

「…僕だよ、氷月」松明を持った羽京が、夜闇を静かに照らす三日月を背景に立つ。
「羽京君。君ですか」少し意外な人物に、思わずその眼を僅かに開けた。

「葵からは話は聞いたよ。彼女の首の傷、アレは氷月がやったのも。ーー彼女との同盟を裏切って、司帝国が瓦解する前に彼女を斬りつけたのも」
「それが、何か」氷月は淡々と短い言葉で返す。

「…正直、僕は君を許してない。けど……許す、って言ったんだ。彼女は」
ギュ、と松明を羽京が握る。
「そうですか」興味無さげに答える。

「…彼女は無茶ばっかりする困ったイタズラ猫だけど。でも、根っこはしっかりしてる、芯のある子なんだ。たまには、僕もイタズラして彼女を困らせてやろうかな、って。ここに来たのはその為だよ。

ーー君なら知ってるだろう?氷月。彼女が、幼い頃の自分より管槍をずっと練習してたのを」
その問いに、氷月は無言だった。

勿論、知っていた。入門当初は興味無さげにしていた葵が、何故か瞬く間に難関の尾張貫流槍術を門下生の中でいち早く習得。本来なら、とてつもなく長い時間と鍛錬が必要だ。

ーー彼女の努力は誰より負けてなかった。自分よりも朝早く来て、夜遅く帰る。毎日練習を欠かさず、謙虚さを常に持ち、スポーツマンシップもある。中身も能力も優れた『天才』だと、誰もが彼女を褒め称えていた。

でも、本当の姿はーー

「……葵はね、氷月の居ない隙を狙って道場に通ってたんだ。バレない様に、ずっと旧世界で道場辞めてからも、練習を続けてたんだよ。

その時に、道場の講師の人から言われたんだって。
『君は家の勧めで初めは嫌々やってたけど、氷月君の姿を見て努力をした。
氷月君は、常に一歩先を歩もうとする君のお陰でその培ってきた努力を開花させた。

二人の天才が居なければ今の尾張貫流槍術は無い。きっと氷月君は、良い次代の『継承者』になる』
だって。」

僕からはそれだけ。じゃあね、氷月。そう一方的に話すと、羽京は去った。

ーー『天才』『優れた遺伝子の持ち主』
それらの賛美はいつも葵に注がれていた。
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