第10章 集う
手に持った一つの簪。これと対を成す簪は、あの子と共にマグノリアを臨む場所で、眠ってる。
「しっかりしないと。」
しばらく休んで、出血によるふらつきも大分軽減された。出血に対しては私の魔法ではどうしようもないのが歯がゆい。簪を懐に仕舞い、歩き出す。
「な…!あれは!」
私が前方に見つけたのは敵の大軍勢。しかも、私と森で戦っていた人が辱められて捕虜になっている姿。
「ベリオロス!!」
この雪山に相応しい機動力を誇るモンスターを喚ぶ。私の声にこたえて現れたのは雪山に溶け込むような純白の体毛を持つ豹のような翼竜だ。
グルグルと喉を鳴らした彼は、この状況を瞬時に読み取って跳躍の体勢に入っている。そしてこちらに碧眼を向けて指示を待つかのように筋肉を硬直させた。
「標的は捕虜以外の全アルバレス兵よ。お願い!」
微動だにしなかった全身の筋肉が躍動し、敵の軍勢に後方から重い一撃を浴びせる。ベリオロスは敵兵の攻撃を巧みに空を舞うことで躱し、竜巻や氷塊の咆哮、そして力強い四肢での打撃と非常に多彩な攻撃を繰り出す。それも目が追い付かないほどの速さで。
彼には危なくなったら雪山に退避するように言ってあるから、大丈夫だろう。私も単独で捕虜の開放に向かう。遥か前方ではガジルやレビィたちの魔力を感じる。
「ミネルバ!!」
「お主…無事じゃったか。」
「貴女ね?私を魔法で敵の居ないところまで飛ばしてくれたのは。」
「ユキノが世話になったようじゃからな。」
「でも、その所為で貴女たちは…」
「良い。助けたのにそのような顔をされてはかなわぬ。」
「…分かったわ、ありがとう。」
ミネルバは仲間の元へ行った。少し離れたところではガジルとブラッドマンが戦闘をしている。
私は少しでも相手の兵力を減らすことに専念した方が良さそうだ。
「ベリオロス!」
敵を薙ぎ払っていたベリオロスはすぐさま私の声に反応してこちらへと飛んでくる。
「乗せて頂戴。」
体を低くしたベリオロスの背に飛び乗る。固い装甲にしっかりと足を掛けて上半身を腹筋だけで支えなければならない。足場の悪い雪原や時には壁までも俊敏に飛び回る彼に乗っているのもなかなか体力を消耗するのだ。