第9章 懺悔
冷たく嗤う”妹”からは、生気が感じられない。妹だといいながら容赦なく風の刃で私を攻撃する彼女は、誰?
「あの時、お姉ちゃんは助けてくれなかった。」
心臓を握られた感覚がした。私の身体の動きが鈍くなったのを知ってか知らずか、彼女の攻撃は激しさを増す。
「私を見殺しにして、かりそめの”家族”を手に入れた気分はどう?」
―ああ、やめて。
―私は、私…は。
「うっ!」
左腹部に赤い線が走った。次いで右太腿、左腕、頬にも赤い筋。徐々に体から血が失われていくのが分かった。
「レティ…。」
「アハハハ!いい気味だわ!私を放っておいて、お姉ちゃんだけ幸せになろうなんて、許さない!」
―そうか、この子は…。
「じゃあね、お姉ちゃん。」
手にした風の大鎌を振りかぶって、妹は私に別れを告げた。
鮮血が腕を伝う。
――熱い。
「どう…して。」
「私の妹は、レティは、他人の不幸を嗤えるような子じゃないわ。」
高圧水流を纏った私の腕は、レティの腹部を貫いていた。
「私を…殺したの…?」
「ええ。」
「…二度も。」
「…ええ。」
ずる、と腕を引き抜くと支えを失った身体がうつ伏せにどさりと音を立てて崩れた。周りの雪が赤く染まって融けていく。
その瞬間、レティは光の粒子となって霧散した。何事かと目を見開く私の前に光が集まる。
―お姉ちゃん、生きて、家族と幸せになってね。
「レティ…!!」
―懐かしい声が聞こえた。その瞬間私は膝から崩れ落ちて、彼女を喪ってから初めて、声を上げて哭いた。
私の見ていた妹は、私の心の中の罪の意識と妹の魂から出来たヒストリアだった。ヒストリアを倒したことで少なからず妹の魂は解放されたのだろうか。今までずっと、レティを救えなかったという現実から目を背け続けてきたが、やっと赦された気がした。
妹を守れなかった事実に変わりはない。それでも妹に生きろと言われた。
今度こそ、家族を守れるように。掌から零れ落ちてしまわないように。
――涙と共に流れ落ちたのは、あの日の懺悔