第2章 過去の断片
「被告人レティ・モーラーを死罪とする。以上、閉廷。」
感情を含まない声が判決を言い渡す。木槌のコンという音だけがやけに耳に残った。そのまま裁判官は席を立ち、出ていこうとする。妹も連れていかれる。おねぇちゃん、と泣きながら。
「そんなこと有り得ない!妹は無罪だわ!待って!もう一度調べてちょうだい!一体何の罪で死罪になるっていうの!?あの子は利用されただけだわ!」
「とうに調べはついている。これ以上騒ぐとお前も有罪になるぞ。」
「あの子はまだ12歳なのよ?そんな子がゼレフ書の悪魔の封印を解いた上、操ることなんてできるわけないじゃない!」
いくら叫んでも役人は取り合ってくれない。妹の姿が掻き消える。頭の中でかつて聞いた台詞が木霊する。
「やれやれ、感謝するんだな。お前の管理不足をもみ消してやったんだ。」
「一時はどうなることかと思った…はぁ。それにしても一体封印を解かれたゼレフ書の悪魔はどこに行ったんだ?」
「俺が知るかよ。貧しい村の小娘が引き起こした事故だったってだけだ。」
「かわいそうになぁ。」
「最低だなお前。もう少しは反省しろよ。」
「してるだろ。だから退職金貰って隠居しようってんだ。しかし、小娘を罪人に仕立て上げた張本人だけには言われたくねぇな。」
「違いない。」
ハハハッ、と嗤う声がする。心が沈んで行く。もう戻れないところまで。