第8章 開戦
カチという金属音がすぐ耳の横で聞こえた。いつの間にか耳たぶに触れていた硬い指先が離れていく。
唇が離れたころに耳に手をやると冷たい金属に触れた。
「これは?」
「付けてろ。」
「アクセサリーなんて送る人だったかしら?」
「良いから付けてろ。」
「フフ、嬉しい。ありがと。」
決戦前だとは分かっていても自然と口角が上がってしまう。初めて彼からアクセサリーを貰ったかもしれない。―と彼の右耳にも光るものがあることに気付いた。
彼の耳元で揺れるそれは漆黒の結晶で、自惚れかもしれないけれど私の”色”であるかもしれないことは想像がついた。ならば私の右耳に付いているのは金糸雀色だろうか。
「ラクサス、生きようね。」
「当たり前だ。」
そして私たちはそれぞれ配置に付いた。私はモンスター達が目立たないようにナツたちとは別に森の中で静かに時を待った。
時折右耳に触れて”彼”の存在を確かめるようにピアスを揺らす。そうしていると不思議と少し、力が湧いてくるようだった。
と、空気が張り詰めた。不気味な風が森の木々を揺らす。
「…来た。」
私が敵の魔力を感知して顔を上げた瞬間、初代の声が響いた。
「敵は上空!!空駆ける大型巡洋艦約50隻!!」
空には天馬の魔道爆撃艇を凌ぐほどの戦艦。そして先頭の一際大きな船には巨大な魔力を感じた。これは、ラクサスが以前激突した砂を操るアジィールの魔力だ。
「ナツたちも動いた。あの人達、船酔いするのに大丈夫なの…?」
そんな私の心配をよそに竜たちは戦艦へと突き進みそして…あろうことか着地した。
「…!?何やってんのあの子たち!?」
幸いエルザがいたからよかったものの…でもこのままではフリードの術式が持たない。一刻も早く戦艦を殲滅しないと。
「レイギエナ!!」
耳を刺すような咆哮と共に黒光りする体表を持ったモンスターが現れる。
「空に浮かぶ戦艦を落としに行くわ。1つ残らず。」
鷹のような双眸が私を捉えた瞬間、レイギエナは吐息を吐き出して全身を震わせる。黒い表皮とは対照的な白い氷の結晶が生み出されていく。
全身に氷の衣を纏ったレイギエナは静かに体制を低くした。その首をひと撫でし、私は翼の付け根付近に飛び乗る。
「お願い!」
後方にある翼が躍動し、レイギエナが舞い上がる。